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第23話 テスト、受験、受験……色事?
「来週から期末テストな。体調には気をつけて、塾ばっか力入れて学校のテスト適当にすんなよ。以上」
「礼っ!」
ホームルームが終わると同時に、教室が一気にざわめきだす。
塾に直行する子、まだ部活に向かう子、スマホ片手に友だちとおしゃべりを始める子──
紫季は、誰とも目を合わせないように視線を泳がせながら、そそくさと帰り支度をしていた。
そこに、声がかかった。
「森くん……じゃなくて、えっと、紫季《しき》くんって呼んでいいかな?」
(え……誰?)
「う、うん。いいよ。どうしたの?」
「あ、ありがとう!えっとね、紫季くんって〇〇国際外国語大学志望なんだよね?この前、職員室で担任の先生が話してるの、たまたま聞いちゃって……」
女子はぺこっと頭を下げながら、少し早口で続ける。
「私もね、同じ大学を目指してるの。塾は地元の個別に通ってるんだけど、紫季くんって駅前の大手の方でしょ?雨宮くんが言ってたの」
(雨宮……お前、口軽すぎだろ……)
「よかったらでいいんだけど、情報交換しない?うちの塾は英語特化で卒業生も多いんだけど、大手の話も聞いてみたくて……だめ?」
話しかけてきたのは、森山由希子。
あの山中さんと仲が良くて、英語の成績はクラス1とも言われている。成績優秀、性格も悪くない、クラスの中ではかなりマトモな女子だ。
(うーん……めんどくさい。でも、情報は……欲しい)
「……いいよ」
「ほんと!?うれしい〜!紫季くん、絶対断ると思ってたから!」
「そ、そうかな……」
と、そこへ割り込むように現れたのは──
「森くんは、いつも近寄りがたい雰囲気出してるから。クラスでこんなに話してるの、私も初めて見たかも」
山中さんが、紫季の前の空いている椅子にすっと座ると、落ち着いた口調で言った。
「えっ、山中さん……」
「ねえ、どういう心境の変化?私の時は、すごく丁寧にお断りしてくれたのに」
「えっ!えーっ!?真美、紫季くんに告白してたの?」
「うん。言ってなかったっけ?」
「いや、まじで初耳なんだけど……いつの話?」
「ん〜三年の最初あたりじゃない?」
「う、うん……」
女子ふたりのテンポのいい会話に、完全に圧されて返事が片言になる紫季。
「手紙で告白したらね〜、丁寧に手紙で返事くれてさ。振られたのに……なんかめっちゃ萌えたんだけど!」
「何それ、キュンなんだけど〜〜!」
「ちょ、ちょっと……!」
(振られたエピソードを公表しないで……!?)
紫季は顔を赤くしながら、オロオロしている。
「もう過去だし、いっか!私は吹っ切れてるし〜」
「いやでも、マジで詳しく聞きたい!何がきっかけだったの?やっぱ顔?てか紫季くん、顔面整いすぎじゃない!?」
「でしょ!?初めて見たとき、電流走ったもん。白馬に乗せて、かぼちゃパンツと白タイツ履かせたくなる顔!」
「それーーー!分かるぅ〜!今日初めて近くで見たけど、肌もめっちゃ白くて透けてるし!」
女子ふたりに囲まれ、紫季はパニック状態。
目は泳ぎ、口の端はピクピク震え──
「……え、ふたりとも……俺の顔、いいってわかってたの?」
ピタッと動きが止まる女子ふたり。
そして──
「「っっぶわはははっっ!!!」」
お腹を抱えて、教室に響くほど笑い出した。
「ちょっと待って……!森くん、自分がイケメンって自覚あんの⁉︎めっちゃ天然じゃん!」
「眼鏡と前髪で隠せてるとでも思ってたの……?マジで⁉︎かわいすぎでしょ!」
真美は紫季の肩をポンポン叩きながら、涙を浮かべて笑っている。
「想像のナナメ上いくな〜森くん、天然記念物に認定!」
「じゃあ教えてあげよう、紫季くん。君がクラスの女子にどう見られてるか──」
紫季はポカンと口を開けたまま、フリーズした。
「森くんさ、クラス女子の間でファンクラブあるの、知らなかった?」
「『今日の王子はクマひどい〜』とか『あの寝癖はもう芸術』とか、日替わり実況されてるよ?」
「英数科って女子多いし、しかも肉食多いからね。そうなると癒されたいのよ、可憐で儚げなイケメンに!」
女子ふたりのマシンガントークが止まらない。
一方の紫季は、完全に脳がバグって現実を処理できず──静かに現実逃避モードへ突入していた。
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