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第24話 テスト、受験、受験……色事?

「でもさー、さっきの話だと、森くんって自分がイケメンって自覚してるってことだよね? 隠してる系?」 「もしかして、紫季くんのその眼鏡も……伊達?」  頭がショート寸前の紫季は、思ったままを口にするしかなかった。 「……うん。伊達眼鏡だよ。素顔は、あんまり見られたくない……。この顔で、いい思いしたことないから。だから、前髪も伸ばしてるんだ」 「……そっか。詳しくは聞かないけど……」  由希子がふっと表情をゆるめて、あっけらかんと言った。 「私たちは、もう絶対森くんのこと好きにならないから。安心して、何でも相談してね!」 「そうそう! 真美には彼氏いるし、私は三次元には一切興味ナシ」  2人とも、紫季なんてまったく眼中にないと言い切った。 (……俺、なんて自意識過剰だったんだろう)  紫季は、みんなが自分に関心を向けていると思い込んでいたことに、今さらながら気づいた。 「……ふふ。ははっ、そうなんだ。うん、ありがとう」  凛太朗以外の人と、こんなふうに笑えたのは本当に久しぶりだった。 「やっぱ可愛い〜! 笑うとめっちゃ可愛いじゃん、真美」 「ねー。正直さ、モテてたでしょ?」  ――まぁ、それなりには、と正直に答えてしまった紫季に、2人はまた腹を抱えて笑い出した。 「やばい! 森くん、ギャップ面白すぎ!」 「顔隠して存在消してるくせに、性格めっちゃ面白いじゃん!」  キャッキャとはしゃぐ2人を前に、紫季は思わず項垂れる。 (……ああ、もうこの2人からは逃れられないかも) 「ねぇ、とりあえず連絡先交換しよ? 森くんの性格はさておき、受験情報はシェアしたいでしょ?」 「そうそう! 真美は志望校違うけど、〇〇外大も受けるから」 「うちの塾もけっこう情報あるし、また共有するね。あ、私も“紫季”って呼んでいい?」 「じゃあ私も呼び捨て〜」 「ちょ、由希子、距離詰めるの早っ」 「いいじゃん、もう紫季と由希子はマブダチだから!」 「はは……ウケる。って、見て見て、この迷惑そうな顔!」 「眉間にシワ寄せても可愛いって反則じゃない?」 「いやなの? 紫季」 「……いや、では……ないです。もう、ご勝手に……」 「はーい、ご勝手にグループトーク作っときまーす」  その後も2人の弾丸トークに巻き込まれ、気づけばホームルーム終了から20分が経っていた。 「紫季、また明日ねー!」 「今度、眼鏡なしの素顔見せてね!」  最後まで騒がしく話しながら、2人は一緒に教室を出て行った。  女子との会話なんて、いつもなら息が詰まりそうになるのに。  話しかけられた時点で逃げることもできたはずなのに、今日はなぜか、話してみようと思えた。  連絡先を交換したのなんて、いったい何年ぶりだろう。  スマホに追加された新しいアイコンを見つめて、紫季はふっと微笑んだ。 (やばいやばい。めっちゃ遅くなった!)  紫季はピロティから校門までを早足で抜ける。最寄りのバスは15分に1本。16時発のバスにギリギリ間に合いそうで、校門を出た瞬間、全力でバス停まで駆け出した。   「ただいま」 「おかえり紫季くん」 「うん、茜さんただいま。葵も」 「にーちゃん、おかえり」 「紫季くん、今日は予備校ないよね? 家でご飯食べる?」 (うわ、ご飯のことまで考えてなかった) 「あ、いや、今日は凛太朗の家で食べるよ。一緒に勉強するって約束してて……ごめん、急いでるから」 「全然いいのよ、勉強頑張ってね」 (ちょっと感じ悪かったかな……でも、今日は仕方ない)  自室に飛び込むと、紫季は申し訳程度に教科書とノートをカバンに詰め、慌てて着替えを探す。  リビングに顔を出す暇もなく、「汗かいたからシャワー浴びるー!」と叫びながらバスルームに篭もり、支度を済ませると凛太朗の家へと向かった。 ⸻ 「お邪魔します……」 「はいよ。俺の部屋で待ってて。飲み物とお菓子持ってくる」 「わかった……」 (こ、怖いくらい普通だな……)  何百回も登ったはずの階段。なのに今日は、一段上がるごとに鼓動が喉までせり上がってくる。  胸の奥がキリキリと締め付けられ、足取りが不自然に遅くなる。  そして――見慣れた凛太朗の部屋のドア。 (行け……勢いだ!)  目をつむる勢いでドアノブをガチャッと回し、部屋に入った瞬間――  ふわっと鼻先に金木犀の香りが広がった。  そこには、いつもの机、整頓された本棚、左手にはセミダブルのベッド……  視界にベッドが入っただけで、脳内に変なスイッチが入ってしまう。 (な、なんでセミダブル……ちょっとやらしい……!)  紫季の中で、ありもしない展開がぐるぐると渦巻き始めた。 「紫季」 「うわっ!」  いきなり名前を呼ばれ、声が裏返る。凛太朗が器用に片手で、2リットルのコーラ、コップ2つ、チョコとポテチを抱えて戻ってきていた。  顔を向けた瞬間、思わず視線を逸らしてしまう。 「紫季? どうした?」  手に抱えたものをひとつずつ机に置きながら、凛太朗が首を傾げる。 「な、なにが…」  しかし紫季の顔を一瞥した彼は、そのままガクッと肩を落とした。 「ちょっと……お前、それはダメだろ」 「へ? な、なにが?」  首をすくめて聞き返す紫季に、凛太朗は溜め息まじりに、にじり寄る。 「紫季。お前さ、自覚なさすぎ」 「な、何の話?」  身を固くする紫季に、凛太朗はふっと片眉を上げる。 「“今からエッチなことしちゃうかも”って顔、ダダ漏れ。マジでバレバレ」 「……ッッなっ……!」  紫季は真っ赤になりながら、後ずさった。足がコードに引っかかってよろめき、思わずベッドの端に手をつく。  (やばいやばいやばい!ほんとになんも考えてなかったのに……!!)  凛太朗はそんな紫季を、いつもの優しい目でじっと見ていた。  焦る紫季に、ちょっとだけ意地悪な笑みを浮かべながら――

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