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第1話②
「それより凪、明日から夏休みなんだから、今日ぐらいは友達と遊んできなって言っただろ。ずいぶん早いお帰りじゃないかい?」
ぎくりとした。
「あ~、うん、特に誰にも誘われなかったからさ」
……というのは嘘だ。一応遊びに行こうぜと友達に声は掛けられたし、行ってみようかなとも一瞬思ったけど、結局我慢することにしたのだ。
だって僕が優先すべきはどう考えてもこっちだ。明後日には海開きで、しおさい亭も明後日から営業開始だから、準備は山ほどある。
僕の下手な嘘を信じたらしいばあちゃんは、ぎゅっと顔を顰めて、心配そうな顔つきになった。
「なんだい、そんなの自分から誘えばいいだろう」
「う~ん、まあ、そうだね」
「若いもんが遊ばないでどうするんだい」
「う、うん」
「我慢してんのかい」
「我慢だなんて……」
こんなのは我慢にも入らない、と僕は思う。
何といっても、早くに両親を亡くした僕を十年以上育ててくれたのはばあちゃんなんだから。僕だってもう十七歳だし、今度は僕がばあちゃんを支える番だ。
「あんた、友達いないのか?」
「失礼だな、ちゃんといるよ」
「友達は大事にしないとだめなんだよ」
「してるって。大丈夫だよ。ほら、残りは僕がやるからそこ退いて」
ばあちゃんに代わってすべての板戸を外し終わり汗を拭っているとばあちゃんが思い出したように口を開いた。
「そういえば、今年も豊んとこにバイトの学生が三人入るってさ。昼時はこっちに寄こすって言ってたよ」
「え、おじさんが? それは助かるな」
豊おじさんは亡くなった僕の父さんの弟で、この近くで小さなペンションを経営している。七月中旬から八月の中旬までの時期がいちばんの書き入れ時で、その時期だけ学生さんのバイトを3人くらい臨時で雇っているのだ。
この海水浴場は混雑するわけじゃないし、『しおさい亭』だってこぢんまりした小さな海の家だけど、僕とばあちゃんの二人体制だと昼どきはかなり忙しい。なので忙しい時間帯だけ、豊おじさんのところのバイトの人たちに手伝いに来てもらっているのだ。
「どんな人が来るんだろうね」
「さあねぇ。二人は大学生で、あともう一人は凪とおんなじ年だって言ってたよ」
「ということは高校二年?」
「たぶんね」
「そうなんだ。うわあ、楽しみだな」
毎年おじさんのペンションにバイトに来てくれるのはみんな大学生で、その人たちは僕に優しくはしてくれるけどあまり仲良くはなれない。高校生と大学生で話も合わないからしょうがないとは思うけど、それでもいつも少し寂しかったのだ。でも同じ年だということは、もしかしたら友達になれるかもしれない。
(……仲良くなれるかな。なれたらいいな)
日の光で輝く海を見つめながら、僕は期待に胸を膨らませた。
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