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第11話①

 暗闇に火薬の匂いが漂っている。  陽が落ちたペンションの軒先に腰を下ろして膝を抱え、僕は見るともなしに目の前の光景をぼんやり眺めていた。  十メートル先のペンションの庭には、花火に興じる千里くんと三人の友達の姿がある。 「ねえ、線香花火やろうよー!」 「じゃあ線香花火対決なー、最後まで残ったやつが勝ち!」 「え~千里ずっる! 三本持ちとかアリ~!?」  火花の音と光が弾けて、笑い声が上がる。 (……楽しそうだな)  四人の姿を見つめながら僕はぼんやりと思った。  さっきから千里くんに「こっち来いよ」と何度か声をかけられたが、立ち上がる気力も、あの中に混じる気力もなかった。  千里くんの友人の涌井くんから、千里くんに好きな女の子がいるらしい、と聞いて数時間。時間がたてばたつほど、ショックは強くなっていくようだった。気力だけでなんとか仕事はこなすことが出来たが、気を抜くとすぐに気分が深く沈んでしまう。 (千里くんの好きな子、か……)  どんな女の子なのだろう。きっと千里くんが惚れるのだから、さぞかし素敵な子に違いない。性格もよくて、優しくて、きっと可愛らしい顔立ちの女の子。   長身の千里くんの側に寄り添って立つ小柄で可愛らしい姿を想像しただけで、胸がきゅうと痛む。  一体いつから僕は千里くんに惹かれていたのだろう。わからないけど、恋を自覚したと同時に失恋するだなんて、なんだか自分らしいなとも思ってしまう。  初恋は実らないと言うがその通りだ。その一方で、いまだに未練がましく可能性が残っているのではないかとも考えてしまう。  千里くんはまだその子とは付き合っていない。だったら、僕が先に気持ちを伝えたら――。 (いや、絶対無理だな)  僕は男で千里くんも男だ。女の子に敵うわけがない。それに、友達だと思っていた男の僕に告白されたら、千里くんはすごく驚くことだろう。もしかしたら引かれてしまうかもしれない。  男の僕に、最初から勝ち目などないのだ。  それに、もともと千里くんは自分とは違う世界を生きている人だ。  この入浜(いりはま)にいるのは夏休みのバイトの間だけだし、夏が終わったら地元に帰っていく。そして高校に戻って、あの三人みたいに素敵な友達と笑い合って、大学に進んでいく。 (遠い人だよな……僕なんかが釣り合うわけがない)  本来だったら、僕たちは交わることがない線だった。出会えただけで感謝しなくちゃいけない。  感謝して、きちんと諦めなくちゃ……。でも僕は――。 「凪くん」  ふいに背後から名前を呼ばれて、心臓が跳ねた。慌てて振り返ると、後ろに蓮さんが立っていた。  

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