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第12話③
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「……叔父さん」
僕が声をかけると、キッチンで明日の朝食の仕込みをしていた豊叔父さんは振り向いて、驚いた顔をした。
「凪……どうしたんだ? 何かあったのか?」
きっと酷い顔をしているのだろう。叔父さんが心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。
「豊叔父さん――」
きちんと説明しなくちゃいけないのに、膨れて大きくなった昏い感情が胸の中につっかえて言葉が出ない。しばらく言葉を探したが見つからず、僕はただ頭を下げた。
「ごめんなさい。僕、帰りたい。家に帰りたいです。ペンションの手伝いも……もう、無理です」
叔父さんが驚いたように息を止める。
「ごめんなさい。こんな無責任なこと言って。ばあちゃんがいない今、僕が頑張らなくちゃいけないのに」
それなのに僕は、千里くんとも自分自身とも向き合おうとせず、目を背け、逃げようとしている。恐怖と罪悪感に負けたのだ。
情けなさにじわりと目頭が熱くなってくる。
叔父さんが大きく息を吸い込み、はあ、と吐き出した。
「何言ってんだ、凪。お前はまだ高校生だろうがよ」
「……え?」
叔父さんの声は言葉とは裏腹に、深く慈しむような響きがあった。
「まだ高校生のガキだろ、お前は。責任なんて背負い込まなくていいんだよ。わがままなこと言えよ」
呆然と顔を上げる。おじさんは、今までにないくらいに優しく、そして泣きそうな顔をしていた。
「お前は昔はわがまま放題の可愛いガキだったんだぞ。それなのにいつのまにか我慢強いお利口ちゃんになりやがって」
叔父さんの目が赤かった。でも眼差しは優しく、唇は穏やかに弧を描いている。
「休めよ、凪。何も考えずに休め。めんどくさいこと考えんのも、心配すんのも、なんとか帳尻合わせんのも全部大人の仕事だ」
「豊叔父さん……」
ぽん、と肩を叩かれ、それに押し出されるように涙が流れた。
「ありがとうございます」
僕は頭をさげ、そして部屋に置いていた自分の荷物をまとめると、叔父さんのペンションを後にした。
海岸からは波の音が絶え間なく海の音が聞こえる。
僕は立ち止り、大きく息を吸った。でも泣いて詰まった鼻では海の匂いがわからない。
あれほど大好きだった夏の海が、今はとても遠い。
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