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side 大貴
海斗は、いったい僕のどこを好きになってくれたんだろう。
海斗に告白されたあの日から、僕はそれを、ずっとずっと考えている。
「……」
各停しかとまらない僕の家の最寄り駅前には、古びた居酒屋とスーパー、コンビニが一軒ずつ、それから、小さな漫画喫茶がある。
この小さな漫画喫茶は、前に一度だけ海斗と来たことがある。
「……ここ、これでやっていけんのかな」
「七島、そういうこと店内で言うなよ」
小さな店内の小さなペアシートでぎゅうぎゅう詰めになりながら、僕はそう言って海斗をたしなめた。
僕がまだ、海斗を名字で呼んでいた頃。
小さな小さな二人だけの部屋で、僕と海斗はそっと、初めてのキスをした。
だけどそれ以来どちらも「行こう」とは言わなくなった。
読みたい漫画がないなら、僕の家の方がくつろげるから。
それに、その方が人目も気にならないし。
それなのに僕は今、その漫画喫茶で、一人、別に読みたくもない漫画を読みながら夜が明けるのを待っている。
耳に付けたイヤフォンから、ラントラの新曲が、僕の気分なんてお構いなしにポップなメロディを奏でている。
「……海斗」
一人で家にいると、いつまでもうちに帰ってこない海斗に、何度も何度も繰り返し電話をしてしまいそうになる。
どこにいるの、何してるの、誰といるの、明日記念日だって覚えてないの、ねえ、アニバーサリーイブは一緒にいるんじゃなかったの。
頭ではやめた方がいいってわかっているのに、心がどうやっても納得しない。
どうしても、何度も何度もスマホをチェックしてしまう。
でも、2時を回った時点で、もう、海斗は来ないなって思った。
もっと早くにそう思うべきだったんだけど、そう思いたくなくて、忘れられているなんて思いたくなくて。
だけど、忘れてないよね?なんて冗談っぽく言うことすら僕にはできなくて、ただ、一人でクリスマスみたいな食事を用意して海斗を待っていた。
「……もったいない」
海斗が僕に好きだと言ってくれた12月23日の2時を過ぎて、僕は、ケーキとチキンをゴミ箱に捨てて家を出た。
家を出たはいいけど、駅前には何もない。
スーパーはもうしまっていて、居酒屋かコンビニかマンガ喫茶の三択だった。
コンビニで立読みをするのは好きじゃないし、居酒屋って気分にもなれなくて、僕はこうして漫画喫茶の小さな小さな部屋に、一人でやってきてしまった。
「もどーれないーのはしーってるの、でもーもどーってきーてよ」
耳から流れるラントラの曲を思わず口ずさんでしまう。
隣のブースから思い切り咳払いをされたのがイヤフォン越しにも聞こえてきて、ここが漫画喫茶だったことを思い出した。
「すみません……」
イヤフォンを外してそう口にする。
僕は何となく居心地が悪くなって、コートを着込んでブースを出た。
出たって、もうどこにも行く場所はないのに。
「すみません、お会計を」
ブースの札をレジに持っていくと、店員さんがサンタの格好をしてそこに立っていた。
入ってきたときは気が付かなかったな、なんて思いながら、札を店員さんに手渡す。
「三田」と書かれた名札をしていて、「サンタ」と呼んでしまいそうになった。
海斗がいたらたぶん、もう「サンタじゃん、サンタさん」って、口に出してただろうな。
「5番ですね……あ、お客様、スマホをトイレに忘れてませんでしたか?」
「え?」
店員さんに言われて、ジーンズのポケットを確認する。
「あ、あれ、ない」
「月野大貴さんですよね、このスマホで間違いないですか?」
「はい……あの、でもどうして」
どうしてこれが僕のだってわかったんですか、と店員さんに聞こうとしたところで、
「急いで帰った方がいいですよ」
と店員さんに言われた。
「え?」
「きっとこの寒さじゃ、プレゼントが凍ってしまいます」
「え……」
「ありがとうございましたー」
笑顔でそう言われるともうそれ以上何も聞けず、僕は渋々お店の外に出た。
そこには。
「……海斗」
「ここ、まだ潰れてなかったんだな」
鼻の頭を真っ赤にした海斗が、困ったように笑いながらそこに立っていた。
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