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第9話

「なに? ビール?」 「うん。伯父さんが一人一本に限り飲んでもいいって」 「へー、翔多の伯父さんって、話が分かるんだな。うわ。プレミアム・ラガーっていいビール飲んでるんだ」 「ちゃうちゃう。伯父さんがいつも飲んでるのは発泡酒。これは浩貴が泊まりに来るからって、オレがお願いして買ってもらったんだ」  そう言って翔多が楽しそうに笑う。  翔多はまだ髪も濡れていて、かすかにシャンプーの香りを漂わせていた。  なめらかな肌をほんのり桜色に染めた彼は、モデルや人気アイドルも裸足で逃げて行きそうなくらい、綺麗で色っぽい。  浩貴の欲望のボルテージが一気に跳ね上がる。  もうここで押し倒しちゃおうか? ……いや、まずムードを作らなきゃ。肩を抱いて、甘い言葉を囁き……キスをして……。  浩貴は口から心臓が飛び出そう、という言葉を実感しつつ、隣に座っている恋人の肩をそっと抱き寄せようとした。  だが、翔多の気持ちはビールに向かっているようで、ほくほくとビールのプルトップを開け、 「浩貴、乾杯しよ、乾杯」  無邪気に笑いかけて来る。  しかたなく肩を抱くのはいったんお預けにして、浩貴もビールのプルトップを開け、乾杯をした。  翔多はビールをこくりと一口飲んでから、ものずごく得意げに話し出した。 「あのさ浩貴、言わせてもらうけど、オレ、アルコールに超強いよー。だって三日に一度は伯父さんの晩酌に付き合って、きたえられてるからねー」 「へぇー」  ビールの一缶……それも350ml……くらいで、強いも弱いもないような気もするが、浩貴は少々不安になった。  浩貴もビールをはじめアルコール類を飲むのは勿論初めてではない。父親は煙草には厳しいがアルコールには甘いからだ。  まさか缶ビール一本くらいで、前後不覚になるほど酔ったりはしないと思うけれど、今夜は気持ちも昂ぶっている。  翔多より先に酔っ払ってしまい、情けない姿を見られることだけは絶対に避けたい。   ゆっくりとしたペースで飲もう……。それなら大丈夫だろう。  浩貴はそう思った。

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