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午後の診察が終わり、看護師や事務員も帰宅した院内はひっそりと静まり返っていた。
誕生日に初めてのヒートを起こした一週間後、出雲は八雲に連れられて伯父の元に来ていた。
地域医療を支え、地元住民に愛されている有泉内科小児科クリニックは、祖父が開業し、今は祐作の姉の夫である伯父の貴文がメインで診療を行っている。
「出雲君、検査の結果だけど──見ての通りオメガだ」
貴文がパソコンのモニターを指し厳粛に告げた。
「喘息が落ち着いて、ゆっくりだった君の成長に身体がゴーサインを出したのかもしれないね。数値がまだ安定してないから突発的なヒートは今後まだ起こるだろう。何が原因でトリガーが引かれるかはわからない。今夏休みだろう? しばらくは家でゆっくりしていた方がいい」
貴文はフレームレスの眼鏡越しにゆっくりと出雲を見た。まるで懐かしんでるいるかのように優しく双眸を細める。
白髪が混じる髪を短く刈上げ、白衣の中はキチンとワイシャツとネクタイ姿だ。祖父は白衣の中は拘らず、ネクタイをしているのは見た事がなかった。そう言えば父の祐作も、白衣の中はよれたシャツだけだったなと思い出す。
発情から一週間、出雲と八雲は家に閉じ籠り、お互いをひたすら貪り合って過ごした。
出雲が疲れて眠りに落ちると八雲も一緒に眠り、目が覚めるとまた身体を重ねた。
発情が落ち着いても、体力の落ちた身体では学校に行く事が出来ず、終業式は出られぬまま一学期は終了し、夏休みが始まった。
「抑制剤を飲んでいてもダメなんですか」
「君の身体が成熟し、安定すれば有効になるだろうね。覚醒したての君の体はまだ未熟だ、まだ青い果実の状態で抑制剤はキツいよ。副作用で寝たきりでいたいかい?」
副作用は微熱、頭痛、吐気、動悸息切れ、食欲不振、眩暈と個人差はあれど上げるときりがない。
「いや……安定するまでどれくらいかかるんですか」
「早ければ一ヶ月、長ければ半年かかる場合もある。これは個人差があるから一概には言えないがね」
「安定するまではヒートを耐えるしか方法はないのか……」
副作用で苦しむのとヒートを耐える苦しみは、一体どちらがましなんだろう。まだ現実味がなくて他人事のようだった。
「アルファに鎮めてもらうのが心身共に一番有効なんだけどね、未成年の内は推奨できない。まずは自身をコントロールできるよう、自分の身体と向き合わないとね。その身体とは一生付き合っていくんだから」
「……」
言葉を失う出雲に、貴文はドアの方をチラリと見遣った。
ここへ連れて来た八雲は当然のように一緒に入って来ようとしたが、貴文は制して出雲だけを診察室に入れた。
多分ドアの向こうで声が掛かるのを今か今かと待ちわびている。
「出雲君……君から八雲の匂いがするね。ヒートは彼が鎮めたと捉えていいかな」
「……はい」
そうだ、伯父もアルファなのだ。ましてや祖父の自宅で八雲の親代わりとなって育ててきた、気づかないはずがない。
くるりと出雲の座る回転式の椅子を回すと、貴文は出雲のうなじを確認した。
「噛まずに堪えてくれたか」
うなじを噛まれてはいないが、身体には噛み痕が付いていた。ギリギリの所で八雲も堪えていたのだろう。
「この事を祐作君や眞知さんは?」
「……言えるわけないじゃないですか」
「そうか。僕の所を受診した事を内緒にする事はできるけど、性別がオメガに確定した事は伝えないといけないだろう」
「わかってます……でも今はまだ……」
言葉が途切れる。オメガへの覚醒、初めてのヒート、そして八雲との事。全てがいっぱいいっぱいでキャパオーバーになっていて処理できない。
ヒートが明けても身体は重いまま、無気力なのだ。今いる自分の現状すら受け止められなくて、心を気丈に奮い立てていないと今にも心の軸がボッキリと折れてしまいそうで怖い。
「けれど説教はさせてくれ。出雲君の身体はね、成熟すれば妊娠し出産する事ができるんだよ。この数値がマックスだったら、八雲の子供を宿していたかもしれない。若いうちは衝動に流されて、取り返しのつかない結果を招いてしまうケースが後を絶たない。これからは自分の身体は自分で守るんだよ。首噛みと避妊、これだけは絶対に忘れるんじゃない」
パソコンのモニターに映し出されている検査結果の数値を示して、貴文は口調を強くした。
「それだけ?」
「ん?」
「何で俺達の事を咎めないんですか? 俺ら兄弟ですよ。兄弟で──こんなこと、あっちゃいけないじゃないですか。俺達を批判しないで説教が避妊て訳わかんねえ」
自虐的に連ねると、貴文はやれやれと言った具合で出雲に向き合い、眼鏡を外してデスクに置いた。
「そうだね、じゃあ伯父さんの話を聞いてもらおうか。僕はね、小さい頃の君達を知っているんだ。生まれたばかりの君達は天使のようにキラキラと光りに包まれていた。柔らかくて温かくて、こんなに小さくて、抱っこさせてもらえるだけで緊張したよ」
「……」
興味なく黙り込むが、貴文は気にする様子はなかった。
「両親の離婚で二人が離れると聞いてね、養子に迎えたいと申し出た。眞知さんに反対されて浅はかだったなとあの時は反省したよ。どれだけ身の切れる思いだったか、親の気持ちってものが僕には分かってなくてね。無神経な事をしてしまった」
「……」
「顔を上げてくれないか出雲君。子供が授からなかった僕達夫婦には、君達兄弟が眩しくて堪らなかった。天使だった君達に、またあのキラキラした瞳で見られたいんだよ。今でもサンタ伯父さんて呼ばれたいし、嫌われたくないって欲があってね」
顔を上げるが貴文を見る事はなく、視線は落としたまま、ぼんやりとデスクに置かれた眼鏡を見ていた。
「ここで僕が君らを叱咤し、引き裂いて、祐作君と眞知さんにつき出したら、君達は僕を嫌うだろうし憎むかもしれない。ここから出て行って、二度と顔を見せてくれないだろうね。ん?」
返答を待つ声。貴文は柔らかな目を出雲に向けていた。
「多分……」
「ははは、だよねえ。だから僕からこの事は誰にも言わないよ。だって代わりの親になれるチャンスじゃないか。味方になることで君らから信頼を得られるかもしれない、そんな下心でいっぱいだ」
「え……」
思わぬ言葉に目線を上げた。
目の前には慈愛に満ちた瞳が自分を見つめていた。それは心を丸裸にした貴文の本音なのだとわかる。
「子供が欲しいんじゃない、僕は君達が欲しい。あの光に包まれていた君達が欲しいんだ。親が子に向ける無償の愛を与えたい。そして君達が喜ぶ顔を僕に向けて欲しい。諦めていた僕の夢が叶うかもしれない、そんなチャンスを逃がしたくなくてね。だから僕をもう一人の親だと思って頼ってくれないか?」
「何でそんな事を」
「そりゃあ、心を閉ざしてる君にこっちを向いてもらうには、僕の下心も晒して本音で挑まないといけないからね」
小さな頃、伯父は会うたびいつもたくさんのプレゼントをくれた。サンタ伯父さんと慕って駆け寄ると、次に会う時は何が欲しいと聞いて、必ず約束をしてくれた。飛び出す絵本、パズルにボードゲーム、ラジコン、望遠鏡、自転車、ゲーム機にソフト。数えきれないたくさんの物を。
「何でも買ってくれたのは、俺達に好かれたかったから?」
「もちろん。でもね、純粋にただ一つ、君達が可愛くてたまらなかったからだよ」
涙が出そうだった。
禁忌を犯した自分達を愛してくれる人がいる、ただそれだけで心が救われたような気がした。
吐き出したい。この罪を吐き出して懺悔したい。この人は受け止めてくれる。
握った手が震え出す。食いしばった歯をほどき、小さく息を吸い込んだ。
「俺から……八雲に、手を伸ばした……俺は、八雲を、フェロモンで、誘惑、しま……した」
普段からベタベタくっついて甘え、アルファが逆らえないオメガフェロモンで八雲の理性を奪った。
ごめんなさい、全部自分が悪い。
「八雲はそう思ってないんじゃないかな。でなければあんな態度は取らない、少なくとも彼の意思だろう」
八雲は病室に入る前、入室を拒まれ反抗的な目を向けていた。実父の祐作にすら向けない目を、父代わりの貴文に向けていて、正直驚いたのだ。
「伯父さんにあんな……」
「あれはアルファが本能的に出すオメガへのガードだね。取られないよう他のアルファを牽制するための」
「八雲が……」
「外で待ってる彼は気が気じゃないだろうね、僕すら警戒するくらいだから」
「………」
「不思議だね、血の濃い者同士ではフェロモンは無効化される確率のが高い。君たちは真の兄弟、しかも同じ遺伝子を持つ一卵性の双子なのに二次性別は違う、フェロモンにも反応する珍しいケースだ。しかも出雲君が覚醒したのは、八雲のアルファフェロモンを浴び続けていた結果、急激にオメガ性が発達したせいだ。無効化なんて物最初から存在していない」
「前例がないって事ですか」
「いや、そうじゃない。血縁同士での発情はある。四親等なら八割発情するからね」
「もし、以前のように離れていて八雲のフェロモンを受けてなかったら、俺はオメガに覚醒せずベータになっていた可能性もあったって事ですか」
通常の男性体のオメガならば、成長に合わせゆっくり時間をかけて数値が上がって行き、身体も一緒に変わっていくのだ。
「出雲君の場合、ベータだったのをオメガに変えられた、いわゆる変異型ではないんだよ。生まれた時から決まっていた、君達は──二人で作用し合ってるんだ」
一年前、高校入学時に受けた検査では、その兆候は見えていなかった。ただベータだと確定するには身体が未熟だったため、十八歳の再検査まで未確定とされていた。未熟だと言われていたのは喘息持ちで身体が弱かったせいだ。
声変わりも中二と遅く、脇や脛に毛が生えたのも高校に入ってからだった。けれど、中学で部活を始めてから発作は出なくなり、今は通院もなく薬も三年飲んでいない。
「──いずれ何時かは覚醒していたけれど、八雲のアルファフェロモンを浴びたから、一気に覚醒したんですね」
もしかして八雲の本能は、子供の頃から出雲がオメガなのだと知っていたのだろうか。
そして何の抵抗もなく八雲に手を伸ばした自分の本能も。
「出雲君の身体はまだ変化の途中でとても不安定だ。子宮もまだ機能していないから、今回のヒートでの妊娠はない。ただ──わかって欲しい、君達はどうあがいても血の繋がった真の兄弟なんだ」
伯父が言葉を濁す。医師と患者ならば私情などなくはっきり言うだろう。
「はい、わかってます。ちゃんと」
八雲の子を孕んではいけない。
自分の事が重くのしかかる。親には絶対に言えない。弟にヒートを鎮めてもらっているだなんて。
「今、心も身体も不安定な君はできるだけ安心できる場所で過ごして欲しい。八雲の傍は安心できるかい?」
「わからない……けれど親と一緒の方が罪悪感で辛い」
膝の上に置いた手でハーフパンツの裾を強く握る。
ヒート期間中に体重がかなり減ってしまい、半袖から覗く腕は自分の知っているものよりずっと細い。
「そうか。今日から僕は君達の自称(仮)の親だ。祐作君や眞知さんに話せない心配事があれば、いつでも話して欲しいんだ」
ポンと肩に手を置かれる。顔を上げて見えたのは、幼い頃見上げていた優しい双眸だった。
「父と母の前ではベータのままでいたい……今はまだダメなんです」
「わかった。抑制剤とピルの処方は僕が請け負おう。二人に話せる時が来たら僕にも教えて欲しい、その時までにバースについてもっと勉強しておいて、どんと頼れる(仮)のお父さんになっておくから」
「あり……がとう、ござ、……ます」
「オメガの君の父親は僕だ」
「……は、い……」
ぱたり、ぱたりと水滴が落ち、パンツの生地の色が変わる。
おかしい、自分はこんなに涙を流すタイプじゃあなかったのに、ここ最近やたらと涙があふれてしまう。それだけ情緒は不安定なんだろう、優しさに触れただけで感情はガタガタだ。
ドアの向こうで八雲が立ち上がったのがわかった。
ああ、八雲が来る──泣いているのがバレてしまった。
「──出雲」
ドアが開く前から後ろを振り返る出雲と、診察室のドアを無遠慮に開ける八雲に、貴文がヤレヤレと感心して息をついた。
「泣かせてしまったのがバレたか」
「わかるよ……出雲の事なら」
貴文の前で隠す気のない八雲は、座る出雲の頭ごとギュッと抱きしめる。手をぶらりと下げ、抵抗する力もなく、されるがままになっていた。
鼻腔を付く八雲の匂い。この匂いに包まれて、自分は子供の頃のように安心している。
「双子の行動の類似性は遺伝と環境によるものと言われているけど、君達は感情面の結びつきがとても強く感じるね。その繋がりが特殊なのか双子故の神秘なのか──あまり類を見ない症例だろう。未だアルファとオメガについては未知な部分が多いから、一概には言えないけれど」
貴文はバース性についての分厚い本をペラペラと捲りながら、こんな事ならバースの専門医になるんだったなと苦笑した。
彼に自分達はどう映っているんだろう。
今の出雲には八雲がいなければ一人で立っていることもできない。
支え合う、兄弟愛にあふれた禁断の二人。
そんなところだろうか。まるでお涙ちょうだい物の安っぽいドラマだ。きっと理解されない。ぼんやりと出雲は考えていた。
親愛と愛情、難しいけど、難しくない。
だって本当の気持ちはここにある。
「学校への届け出は僕が代筆しよう。君の主治医として提出するから、今後何かあればここに連絡を貰うよう変更もしておこう──それと、両親へのバースの告知も、君の心が追いつくまで伏せるのを約束しよう」
「はい。お願いします」
出雲が気丈に答えると、八雲の抱く腕に力が更に込められた。
「伯父さんありがとう」
八雲を見る貴文の目が厳しいものに変わる。
「八雲、おまえにも抑制剤を出しておく。アルファは暴走しやすい、自分を見失うなよ」
「わかってる。出雲を傷つけることは絶対にしない」
「体力と免疫力が落ちてるんだ、喘息の発作の不安もある。そうなったら入院するしかない。頼むぞ、八雲」
「はい」
まるで父と子だ。掌中の珠を送り出すように貴文は力強く八雲の背を押す。
このアルファ二人にはすでに信頼関係が築かれているのだ。オメガの自分は彼の子になれるだろうか。
貴文はしばしパソコンに打ち込んでから、すっと顔を上げると瞬き多く静止した。
まるで世界はこの二人のためだけにあるように──寄り添う兄弟を、貴文は絵画でも見るように、眩しそうにずっと見ていた。
その夜は伯父に打ち明けた事が刺激になったのか、出雲の情緒はいつもにも増して不安定になっていた。
勉強の邪魔になると分かっていても、リビングで参考書を開く八雲の腰に巻き付き、傍から離れられない。
気分も落ち気味で、食欲もなく、眞知が送って来た食材で作ったハッシュドビーフはほとんど口を付けなかった。
「出雲、食べられそうになったら言えよ? 用意するから」
「いらない……今はこうやってる方が落ち着く」
八雲の膝枕で横になり、腰に手を回したまま見上げる。抑制剤が効いているのか、八雲からフェロモンの匂いはしない。小さい頃と変わらない彼の匂いだけに触れたまま身体を丸める。
「寝ちゃってもいいよ。ちゃんとベッドに連れていくから」
そうしたら八雲が寝るまで一人じゃんか。一人は嫌だ。親が離婚して、埼玉の家に移った時を思い出すから。
「俺のことは放っておいていいからそれ続けろよ」
「ん」
真上から微笑まれて、つい手を伸ばして口に触れると、パクリと噛まれて今日初めて笑った。そんな些細なじゃれ合いだけで笑顔になれるなんて。
勉強に集中する八雲からそうっと離れて、歯を磨こうと洗面所に行った時だった。八雲が着ていたシャツが洗濯籠の中にあるのを見つけ、無意識に手が伸びていた。
鼻に当てて匂いを吸い込む。
八雲の香りとアルファの匂いが出雲の体の中を満たし、細胞が悦んでいる。大輪の薔薇が開花するように欲が咲きほころび、巡る血液は根がはるように毛細血管まで行き届く。どくどくと脈動が頭に響き、あっという間に身体が崩れ落ちた。
「出雲!」
倒れた音に気づいて八雲が駆け込んで来る。出雲から発せられたどろりと濃く甘いフェロモンが、トラップのように脱衣室内に網を張り、アルファの理性を堕とす。八雲はめまいを覚えたかのように脚をふらつかせると、口を押さえつつ正気を保つため、壁に手を打った。
「あ……ヒートが、また」
音に反応し出雲が顔を上げる。発汗し、呼吸を荒くした八雲は、出雲が握りしめているシャツを見てフェロモンを一気に噴出させた。
「ああ、俺の匂い吸い込んで発情しちゃったんだ。こんなに濃いフェロモン……抑制剤飲んでるのにクラクラする。出雲、それ持ったままでいいから、おいで」
手を伸ばした八雲にぎゅっと強く抱きしめられて、身体が悦びでぞくぞくっと震え上がる。下肢は硬く張りつめ、その奥は体液で湿っている。腹の奥が疼き、満たされたい渇望感。大好きな八雲のフェロモン──欲しい、アルファが──八雲が欲しい。ああ、あの波がまた襲って来る──
「やくも……っ」
「苦しいね……出雲、楽になろっか」
この場から動く事が出来ない出雲のボトムを脱がすと、涙を流して勃ち上がる性器をきゅっと掴む。
「──ンっ、あっ、あ……」
ゆるゆると扱かれてもどかしい。身体の中で熱が出口を求めて渦巻いている。
早く欲しいとねだって八雲の口にキスをすると、応えた唇がさらに深く出雲の唇を覆う。
舌を絡ませながら、八雲は出雲の腰をグイと引き上げ尻を晒させた。
「俺のためにもう柔らかくなってる」
指を差し込まれてぐちゅりと体液が滴った。うんうん、と首を上下に振って、外れた唇を追いながらおまえのためなんだと訴える。
蕩けるように甘くなった八雲の顏。精悍さの面影もなく、ただただ蜂蜜のようにどろどろに甘い。
体液がとめどなくあふれ、太腿に垂れていく。欲しがり息づく孔へ、八雲の欲望が穿つ。痺れるような快感に出雲は背を反らすと、たまらずに嬌声を上げた。
「ん──あ、あぁぁぁっ」
気が飛びそうな程気持ちがいい。
八雲に犯されなければ鎮めることのできない自分の身体は、もうこうされないと生きて行けない。
ああ、これがオメガなのか。オメガの身体はなんて卑しいんだろう。兄弟だとか倫理観が全く通用しない。
「キモチイ……奥、もっと奥がいい……」
「ココ? じゃあずっと奥だけ突いててあげる」
隙間なくぴったりと陰部が重なると、怒張した幹が重たく最奥を穿つ。きゅうっと締めつけると、八雲は眉を寄せて堪える。
「そんなに締めるなって。もたなくなる」
「だって……だって、あぁっ」
突かれる度に内臓から広がる熱が体中を支配し、喘ぐ事しかできない。
自分はされるがまま揺さぶられ、頭の中が空っぽになった一匹のオメガだ。そこに兄弟だとか血の繋がりは関係なくて。アルファとオメガになってただただ求め与え合う、本能の行為。けれど突き込む八雲の脈動と躍動に満たされている。八雲だから、八雲だから──
腰を持ち上げられて、当たる場所が変わる。
「イイ、あぁ……ソコ、すき、」
恍惚と目を閉じて快感だけを追う。
八雲のフェロモンに包まれて、まるでぽっかりと浮かんだ丸い繭の中にいるみたいだ。
ここは蕩けるように甘くて──気持ちがいい。
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