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第5話

冬真と生活をするようになって、一週間が経った。最初の二、三日は緊張状態で過ごしていた。 自分に自信がなく、冬真を怒らせてしまうのではないか、おどおどと挙動不審な動きばかりしてしまっていた。けれど、朔のそんな様子を見ながら冬真は、不快な顔をせず、笑いながらも優しく見守ってくれていた。 ここでの生活は心地よく、リズムにも次第に慣れていった。 朝、夕は冬真が料理をして一緒に食事をとり、日中は各々に過ごす。冬真は一階にある書斎で仕事をして、朔は部屋の掃除や洗濯をする。 余った時間にはテレビで映画鑑賞をした。 そして、時折、書斎に珈琲を持っていく。夜遅くなりそうな時は、不器用ながらもスマホでレシピを見て、夜食を作って書斎に届ける。 朔が作る料理を冬真は喜んで食べてくれた。 失敗してしまう時もあるけど、残さず平らげている。お腹を壊さないか不安になるけど、今のところ大丈夫みたいだ。 冬真の書斎には数え切れないほどの本がある。壁一面が本棚だ。床にも積み上げられた本がある。 冬真に許可を取って本を開いたことがあるが、どれも難しい内容の物ばかりで、朔には理解が出来なかった。 デスクの上にも大量に本が積まれていて、それに囲まれてノートパソコンで仕事をしている。邪魔にならないのか、疑問に思うが、たぶん平気なのだろう。 仕事に集中している冬真はかっこいい。緊迫していて近寄り難いが、それすら仕事ができる大人という感じで、見惚れてしまう。 気分転換する時は、一緒にお茶をしながらたわいもないことを話し、笑い合えて楽しかった。 毎日、平穏な時間が流れていた。 不安に思っていたことは、何も起きなかった。怒られることがなく、嫌われてる感じもない。 冬真はいつだって優しかった。 ただ、時折感じる、冬真の視線に驚くことがある。日頃のふとした瞬間に感じる視線――――その先を辿ると冬真と目が合うのだ。 気配も音もなく、いきなり背後にいることもあった。 距離感も変わらず近い。頭を撫でられたり、肩に触れたり、ソファーで座る距離が縮まっていたりする。 うーん、と唸りながら思い返していると…… (あれ!? 僕、一週間も外に出てない) ふと、そんなことに気がついた。 (えっ!? 嘘っ……) 外に出るのが好きな朔にとって信じられないことだった。 ここに来てからは朝起きて朝食、掃除、洗濯、昼食、掃除、洗濯物を取り込む、夕食、風呂、就寝――――毎日同じことの繰り返しなだけ。 急に外が恋しくなり、家の中の空気に息が詰まるような錯覚に陥った。 (外の空気が吸いたい……) リビングから窓を開けて、置いてあったサンダルを履き庭に出た。ベンチや花壇があり、しっかりと手入れがされていた。日差しが心地いい。 朔は思いっきり深呼吸をした。 (空気が美味しい……) 外の空気を吸ったことによって、朔に次の願望が湧いた。 (お散歩に行きたい) 庭から外に出れないか模索した。けれど、敷地から外へ出ることはできなかった。 何故なら周りに、生垣があり、木々が通せん坊するかのように生えていたからである。 (玄関しかない?) 朔はリビングに戻ると、キョロキョロ辺りを見回して壁に掛かっている時計を確認した。今の時刻は午後三時。冬真はまだ書斎で仕事をしている時間だ。 ビクビクする必要はないのだが、なんとなく音を殺し、そーっと廊下を通り玄関へ向かう。 内心ドキドキしながらも、靴を履き、外へ出ようとドアノブに手をかけた瞬間―――― 「どこ行くの?」 背後から妙にねっとりと絡みつくような声が降ってきた。

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