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第14話 結婚初夜 ②

「ミカエル、先に寝室で休んでおいで」  誰にも気づかれないように、そっとサイモンが僕の耳元で話す。 「僕は大丈夫。サイモンはもう少しいるんでしょ?部屋に戻る時はサイモンと一緒がいい」  本当はすぐにでも寝室で休みたかったけれど、細かい準備に指示を出したりと、サイモンの方が疲れているはず。  これからはサイモンと一緒に、何事も乗り越えていかなければならない。  こんなところで甘えてなんていられない。  招待客と目が合い、ニコッと微笑み返しているとサイモンがテーブルの上に置いてあったワイングラスとフォークを手に取り、フォークでグラスをチンチンと鳴らした。 「ご歓談中のところ、申し訳ありません。時間も遅くなってまいりましたので、私たちは失礼させていただきます。今日は私たちのためにお集まりいただき、ありがとうございました。まだお時間のよろしい方は、食事などごゆっくりお楽しみください」  そういい終わらないうちに、サイモンはヒョイと片手で僕を抱き上げ、スタスタと邸宅に向かって歩き始めた。 「え?あんな終わり方していいの?」 「いい、いい。あの人たちに付き合っていたら、朝になってしまうよ」  そうならなくもないか、と思ってしまい苦笑してしまった。邸宅内に入ってもサイモンは僕を抱き抱えたまま歩く。 「重くない?」  僕だって18歳。いくら華奢だとはいえ、ずっと抱き上げているのには重たいと思う。 「全然。ミカエルはもう少し食べて太らないといけないと、思うぐらいだ。今度、美味しいお菓子をたくさん買って帰ってくる」  サイモンは僕の頬を人差し指で突く。 「もうそんなこと言って、サイモンはすぐ僕にお菓子を食べさそうと餌付けする」  と言ってしまって、ハッとする。  サイモンがすぐにお菓子で餌付けしようとしていたのは僕で、ミカではない。  体が弱かったミカは、食べ物も制限されていて、食べられる甘いものといえば生の果物か、ドライフルーツぐらいだった。 「今度はどんなドライフルーツを持ってきてくれるの?」  慌てて僕が言い直すと、 「え?お菓子じゃなくて、ドライフルーツがいいの?」  と、聞き返されてしまった。  もしかして、サイモンは僕が本当のミカエルではないと気づいている?  様子を伺うようにサイモンの顔を覗きこむ。 「……!ああそうだった。ミカエルはドライフルーツが好きだったな。ごめんごめん。今度、一緒に街に買いに行こう」  僕のことをミカエルと呼んでいるので、気がついているのではない。  ほっと胸を撫で下ろす。  寝室に着き、サイモンがガチャリと部屋のドアを開けると、中には2人の侍女が待っていた。 「ミカエル様、湯浴みの用意ができております」  侍女は「こちらへ」と僕の手を引き、隣の部屋にあるバスルームへと連れて行く。  侍女2人がかりで隅々まで綺麗に洗われた後、バラの香の香油で全身をマッサージされ、最後にシルクでできた前開きワンピース型のネグリジェを着せられた。  きっとこれれは初夜の準備だ。 「もし必要であれば、これを」  小さな銀色の皿の上に錠剤が一つ入っている。 「これは?」 「ヒート促進剤でございます」 「!」 「これからなさることは、ミカエル様にとって初めての体験で、少々お体に負担にかけてしまうかと思います。促進剤をお飲みになられましたら、お体の負担が軽減され、オメガの方はこの方法をよくお使いになられます。ミカエル様、これからのことご不安だと思いますが、サイモン様はお優しい方です。何があっても受け入れてくださいます。ミカエル様はサイモン様に全てをお捧げください」  そう言って侍女は部屋から出ていった。  初夜。  サイモンは優しいけれど、これからすることを考えると不安が大きい。  促進剤を手に取る。  それにオメガの人はこの方法をよく使っているっていうし……。  口の中に促進剤を入れ、水で流し込んだ。  ……。  体温が上がったり息苦しくなったりせず、今のところ、特に変化はない。  弱い促進剤なのかな?  それとも僕が効きにくい体質なのかな?  寝室に戻ると、サイモンが大きな窓から外の様子を見ていた。 「サイモン……?」  下着を付けず、薄いネグリジェだけの姿を見られるのは恥ずかしかったけれど、何も声をかけないのもおかしいと声をかけるとサイモンが振り返る。  僕の姿を見たサイモンはハッと息を飲み、僕から目を逸らさず、そのまま僕の方へ近づいてくる。

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