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第18話 新婚初夜 ⑥

「え?」  急な出来事に驚いたサイモンは、僕の顔を覗きこむ。 「ごめんサイモン。僕、僕……サイモンと、番になれない……」  自分から結婚して欲しいって言ったのに、番になりたいって言ったのに、今更番になれないなんて僕はどうかしている。  でもチラついてしまった。  サイモンが「愛しているよ、ミカエル」と言ったその瞬間、サイモンと腕を組み幸せそうに歩いていたミカの後ろ姿が。  ミカが生きていれば、ここにいたのは僕じゃなくミカで、サイモンが愛しているのはミカで僕じゃない。  たとえ僕がミカの身代わりだったとしても、時が経てば僕のことを見てくれるんじゃないだろうかと、思ってしまった自分が恥ずかしい。  ミカはミカであって、どんなになりたくても僕は本物のミカにはなれない。  いつまでも『偽物のミカ』だ。  ミカだって、きっと怒ってる。  僕が『ミカエル』と名乗ってサイモンと結婚して、番になろとしている。  サイモンを騙して、ミカを裏切って……。  自分の浅はかさと情けなさと、ミカに対しての申し訳なさで涙が止まらない。  サイモンは僕の背中に覆い被さっていたけれどっと離れる。  そして僕の身体を抱き上げると、そっとベッドに寝かせてくれた。  涙でぐちゃぐちゃになった顔を見られたくなくて、僕が両手で顔を隠していると、 「ミカエル、泣かなくていい。大丈夫、大丈夫」  と、隣りで横になりながら頬杖をつき、僕を見つめサイモンが頭を撫でてくれる。 「僕、僕……番に、なれ、ない……」 「うん」  サイモンと番になりたい。  サイモンの特別になりたい。  でもサイモンの特別はミカで、僕じゃない。  サイモンが愛しているのは『ミカエル』であって、僕じゃない。  番になりたい、なれない、なりたい、なれない……。 「サイモン、と……番に、なりたい……のに……なれ、ない……」 「うん」  僕自身、何を言っているのかわからないのに、それでもサイモンは話しを聞き「うん」と言ってくれる。 「僕、サイモンのこと……大好き、なのに……番には、なれない……」 「俺もミカエルのこと大好きだけど、ミカエルが番になれないと思うんだったら、ならなくていいよ」 「僕、サイモンのこと、大好き……なんだよ……」 「俺もミカエルのこと、大好きだよ」 「でも……番には……なれないん、だよ」 「うん、いいよ」 「結婚したのに……番に、ならないんだよ」 「いいよ」 「本当に……いいの?」 「ミカエルにプロポーズしたのは、ずっと一緒にいたいからだよ。結婚したからって、絶対に番にならないといけないわけじゃない。ミカエルが俺と番になりたいって心から思えた時に、俺は番になりたい」 「……」 「俺は無理強いさせたくない。いつかミカエルが俺と番になってもいいと思ってくれる日が来るまで、俺は待つよ。愛しているよミカエル。心から」  サイモンは僕の髪をすくい上げ、キスをする。  僕がどうして番になれないのか、理由を問いただすことなく、ただ僕の言葉を聞き入れてくれる。  サイモンはどこまでも優しくて、いつも僕を守ってくるれる。 「サイモン、大好き」  僕はサイモンの胸に顔を埋める。  体温が暖かくて、胸に耳を当てるとトクントクンと心臓の音が聞こえる。 「今日はもうおやすみ」  優しく優しく頭を撫でられる。 「うん、おやすみサイモン」 「おやすみミカエル」  僕とサイモンは裸のまま抱き合いながら、眠った。

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