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第19話 帝都でのパーティー ①

 サイモンは僕に二つのことを提案してくれた。  一つ目は、僕の気持ちがはっきりするまで番のことは保留にする。  二つ目は、番になってもならなくても婚姻は続ける。 「もし何か言われたら、俺がきちんと対応するからすぐに教えて欲しい。ミカエルは何も心配しなくていいんだよ」  と言ってくれた。  サイモンは本当に僕を大事にしてくれている。  いや、サイモンが大切にしているのは、僕じゃなくミカだ。  僕を通してミカを見ている。  もういい加減、しっかりしないと……。  僕はミカエルだけど、サイモンが知っているミカじゃない。偽物のミカ。  偽物なんだ……。  秋も深くなり、帝都でも収穫祭が開かれる時期になった。  オリバー家は皇帝陛下とも親密で、皇后陛下主催の収穫祭のパーティーでサイモンと僕が結婚したことを報告することになった。  小さな子爵の家の僕がサイモンと結婚して、皇帝陛下と皇后陛下に|謁見《えっけん》をする。  いつもはパンツドレスを着ているが、初めての挨拶の時は煌びやか装いの方がいいと、|ミカ《僕》のイメージカラーのブルーを基調したドレスを帝都でも人気デザイナーが作ってくれ、ヘアーもメイクも超一流の人がしてくれることになった。  パーティーの日が近づくたびに、胃が痛くる。 「これをつけていってほしい」  パーティー当日の朝。侍女にドレスを着せてもらっているところに、サイモンが綺麗に包装された長方形の箱を持って来た。 「開けていい?」 「ああ」  箱を開けると、中にはところどころにダイヤとサファイアが縫い付けられているチョーカーが入っていた。 「ドレスと合うように作ってもらったんだが、どうだろう?つけてくれないか?」 「?それはいいけど、でもチョーカーなんてつけたら、僕とサイモンがまだ番じゃないって、みんなに知れ渡っちゃうよ?」  チョーカーをつけているということは、オメガが自分の身を守るものでもあり、まだ誰にも頸を噛まれていない、番がいない証拠。  未婚の場合はつけているのが当たり前だけれど、結婚すればすぐに番になるのでチョーカーをつける必要がない。  むしろつけていれば、まだ番になる行為をしていない。不仲な夫婦だと陰で噂されてしまう。  サイモンは女性にとても人気があって、今まで何も縁談を断っている。  なのにやっと結婚したが相手のオメガがまだチョーカーをつけているとなれば、いい噂のネタになってしまうだろう。 「パーティーにはアルファがたくさんいると思うから、チョーカーをつけてる方が安心だけど、僕はなくても大丈夫だよ」  わざわざ噂のネタを提供する必要はない。 「それでも、付けて欲しいんだ」  いつもは僕の意見を尊重してくれるサイモンが、今日はそれでも付けて欲しいという。  どうしてだろう? 「ミカエル様、サイモン様は心配なんです」  ドレスを着せてくれていた侍女のエマさんが、見るに見かねてか話し始めた。 「心配? どうして?」 「ミカエル様は、とても魅力的なお方です。なのでサイモン様はミカエル様がご自分のパートナーだと皆様に見せつけ、そしてミカエル様に手は出すな! と威嚇したいんです。そうですよねサイモン様」  ちらりとエマさんがサイモンを見ると、 「そういう……ことになる」  サイモンが恥ずかしそうに頭を掻いた。 「それならそうだと言ってくれればいいのに、どうして言ってくれなかったの?」 「それは……いい大人がパーティーに招待された貴族全員に威嚇するなんて、器が小さすぎるだろう……」  いつもは知的でスマートで紳士的なサイモンが、照れを隠すように視線をずらす。 「……ぷっ! あはははは!」  笑ってはいけない、笑ってはいけないと思い我慢していたのに、あまりにサイモンが可愛いことをするので、つい吹き出してしまった。 「笑うと思ったから、理由は言わなかったのに……」  ぷいっとそっぽを向いてしまった。  か、可愛すぎる! 「怒らないでサイモン」  サイモンの顔を覗き込んだが、またプイっと反対方向を向かれてしまう。  この人は、なんて可愛らしい人なんだろう。  今日はサイモンの新しい一面が見られた気がする。 「ねぇサイモン。このチョーカー、サイモンが僕に付けて」  横を向いたままのサイモンにチョーカーを手渡すと、僕はおろしていた髪を手で持ち上げる。 「ね、お願い」  下からサイモンを見上げると、 「仕方ないな~」  とサイモンが僕の首にチョーカーを巻いたと思ったら、 「ここにも威嚇のマークを付けておくよ」  僕の首元をきつく吸い上げた。  もしかして!  慌てて鏡を見ると思った通り、そこにはくっきりと赤いキスマークがついている。 「これはやりすぎ!」  付けてもらったばかりのチョーカーで隠そうとしたけれど、ちょうど隠れない場所に付けてある。 「もうサイモン!」  頬を膨らませていると、サイモンは僕をぎゅっと抱き寄せ 「これぐらいが丁度いい」  そっと髪にキスをした。

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