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第20話 帝都でのパーティー ②
宮殿付の門に近づく一本道には、貴族たちの馬車がずらっと並んでいた。
「サイモンどうしよう。僕こんなにたくさんの人達の中に放り込まれるの?」
「放り込まれるって」
馬車の中で怯える僕に対して、サイモンが苦笑する。
「だって皇帝陛下と皇后陛下の謁見が終わったら、次は社交界にいるいろんな人に挨拶回りしないとダメなんでしょ?ほらやっぱり僕、恐ろしい魚の餌食になるんだよ~」
「ミカエルは外見も内面も魅力的なんだから、どこにいても大丈夫だよ」
サイモンは慰めてくれるけど、僕にそんな魅力があるなんて思えない。
「俺がそばにいるから、大丈夫だよ」
僕の手をサイモンが握る。
「魚の餌食にならない?」
「あははは。ならないよ」
「サイモンはおかしそうに笑うけど、僕は本当に心配なんだからね!」
「ごめん、ごめん」
そう言いながら頭を撫でられる。僕はいつまで経っても子供扱いされてる。
頬を膨らませ、ぷいと横を向くと、
「機嫌直して、ね」
顔を覗き込まれたから、今度は反対方向を向く。
「ごめんって。可愛いミカエル、こっち向いて」
頬を人差し指でツンツンつつかれ、
「仕方ないな~」
と、正面を向く。
「でも許してあげたわけじゃないからね」
「わかてる。大好きだよミカエル」
額にキスをされる。
そんなことされたら、僕の中の大好きが爆発して、なんでも許してしまうじゃないか!
「もう本当にサイモンずるい!」
「ごめんごめん」
サイモンは僕の隣りに座り直し、
「大好きだよ」
僕の頬にキスをした。
皇帝陛下、皇后陛下、第一皇太子様、第二皇太子様との謁見が終わり、ほっとしたのも束の間、
「オリバー様~」
「サイモン様~」
語尾にハートマークがつきそうな甘い声で、貴族令嬢がサイモンに近寄り、
「わっ!」
僕を押し退けサイモンを取り囲む。
もう少しで倒されそうになった時、サイモンがすっと僕を支えてくれ、
「ご令嬢方、紹介します。パートナーのミカエルです。久々の社交界ですので、色々と教えてやってください」
ニコリと微笑むサイモンだったが、目の奥はすわっていてかなり怒っている。
「は、初めまして、ミカエル・オリバーです。知らないことばかりですので、色々教えていただけますと嬉しいです」
マナーの先生に教えてもらった通りのお辞儀をして挨拶をすると、
「こちらこそ、よろしくお願いしますね」
とは言ってくれたものの視線は冷たく、クスリと蔑んだ笑みを僕はぶつけられた。
その視線に負けてしまいそうになったが、今僕はサイモンのパートナー。
怖気付いてはいけない。
グッとお腹に力を入れて、微笑みながら睨み返す。
「仲良くしてくださっているようで、私も嬉しいです。そんなところ申し訳ないのですが、私達は挨拶回りに行かないといけなくて、ここで失礼します」
ご婦人方の返事を聞く前に、サイモンは僕と手を繋ぎ、人混みに入っていく。
「サイモン、あのままでいいの?」
手を引っ張られながら聞くと、
「あんな失礼なやつらと、関わる必要はない」
僕以上にサイモンが先ほどの失礼な態度に、怒っている。
「あんなの僕は大丈夫だよ」
「そんなわけない。俺の大切なミカエルに、なんて態度だ。もしあんな態度が続くんだったら、社交界なんて出なくていいからな」
サイモンが僕が思ってた以上に怒ってくれていることが、嬉しかった。
もし何かあったとしても、サイモンがいてくれたら大丈夫。
社交界の荒波の中でもやっていけそうな気がした。
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