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第40話 罪悪感 ②
泥沼から目覚めると、僕の体は綺麗に拭かれネグリジェを着てベッドに寝かされていた。
「エマ……さん?」
周りを見回したが、見当たらない。
廊下に出ようとドアに近づくと、廊下で誰かの話声が聞こえる。
あの声は、エマさんと……サイモンだ。
愛しいサイモン。でも今は一番会えない人。
話の内容は聞こえなかったが、最後にサイモンが何かを言ってその場を去った気配がし、エマさんが部屋に近づいてくる足音がする。
ガチャリとドアが開く。
「ミカエル様!お加減はいかがですか?」
僕の体に異変はないかと、色々な角度から僕を見る。
「どこも痛くないし、元気だよ」
体は大丈夫。でも心は死んでしまったように冷たい。
「そうですか。今暖かいお茶を淹れますね」
ビロードのソファーに座らされた。
ティーポットも茶葉と湯を入れ蒸すと、なつかしい香りがする。
「これは……」
「これはレオナルド様が、ミカエル様のために特別に調合されていた茶葉です。先日店から取り寄せました」
レモンの香りがするハーブティーは、冷たくなった心をほんの少し軽くしてくれた。
「ありがとうございます」
ハーブティーを手渡され一口飲むと、涙が一粒溢れた。
もう一口飲むと、もう一粒溢れた。
また一口飲むと、涙も一粒こぼれ……。
お茶を飲むたびに涙が溢れた。
ミカのことが思い出され、サイモンのことが思い出され、酷いことだとわかっていても、母様の言われることを実行してしまう自分の卑怯さと穢らわしさが思い出され……。
寂しくて、恋しくて、虚しい。
「泣いていいんですよ。我慢しなくていいんですよ。私の前では、思いっきり泣いてください。隠さないでください。ミカエル様を追い詰めてしまったことが何なのかは、聞きません。ですが話したくなったら、このエマに話してください」
「……」
「サイモン様に言いたくないなら、言わなくていいじゃないですか。会いたくないなら会わなくてもいい。愛を誓いあったパートナーであっても、ずっと一緒にいなくてもいいんです。誰に指図されることもないんです。ミカエル様はミカエル様がしたいようにされたらいいんです。どんなことがあっても、私はミカエル様の味方です」
エマさんの目にも涙が溜まっていた。
僕のために、ありのままでいいと言ってくれる人がいる。
泣いてもいいと言ってくれる人がいる。
心配してくれる人がいる。
味方だと言ってくれる人がいる。
「ありがとう、ございます」
泣いた。たくさん泣いた。もう涙が出ないかと思うほど、泣いた。
今日これより先、何があっても泣かないと決めた。
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