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第46話 恐れていたこと ③
「どうして薬を盛った?」
母様に言われたなんて言えない。
「子供が……欲しかったから……」
僕の役目はカトラレル家のため、自分が捨てられないため、サイモンと番になって子供を授かること。
でも役目だからとかじゃなく、こんな仕方ではなく、いつかサイモンとの子供を授かりたかった。
愛し愛され、子供に恵まれたかった。
サイモンそっくりな子がいいな、なんて思ったこともあった。
けれど僕は、母様の言いつけと言い訳してサイモンに薬を盛った。
酷い酷い方法で、サイモンを傷つけた。
「なんだその答え。聞いて呆れる」
サイモンは『ふっ』と鼻で笑う。
「じゃあ、俺を避けていたのは?」
「薬を、盛ったから。もう会わせる顔がなかった」
薬を盛ったのは誰でもない僕だ。
僕に薬を盛られた時のサイモンの悲しそうな顔が忘れられない。
僕はサイモンにあんな顔をさせてしまうことを、したんだ。
あんなことをしておきながら僕は、サイモンに嫌われたくなかった。
あの優しかったサイモンが本当のことを知り、軽蔑されるのが怖かった。
サイモンが本当のことを知る前に、消えてしまいたいと思った。
なのに、僕はできなかった。
結局、自分が可愛くて何もできなかったんだ……。
「自分から盛っておいて、それはないだろう。で、遠くに行こうと思ったのは?」
「子供を授からなかったから……」
「!!」
サイモンの全身から怒りを感じる。
「そんなことで!?」
グッとサイモンにきつく腕を掴まれ、睨まれる。
いつもいつも大切に大切に触ってくていたサイモンとは思えない力。
痛い。
強く握られた手首も心も。
「子供を授からなかったから、出ていく?俺と一緒にいたのは、子供が欲しかったからだけだったのか?俺と一緒にいたいとか、そういうのではなかったのか?」
怒りに満ちていた瞳の奥が、一気に悲しみの色に染まる。
「家のことがあるから俺と結婚して、子供だけが欲しいから薬を盛って、授からなかったから出ていく。その間、俺のことは何も思わなかったのか?」
「……」
「ルーカス様には本当のことを言えて、俺にはいつまで秘密にしておくつもりだったんだ?ああ、そうか。言うつもりはなかったんだな。だってレオは黙って、俺の前からいなくなるつもりだったんだもんな」
「ちがうッ……」
咄嗟に言ったが、
「何も違わない。レオ、俺はレオのことが好きだった 愛していた 。だけど今はレオのことをどう思っているのか、わからない」
サイモンは掴んでいた腕を、振り払う。
「レオ、残念だ。本当に残念だよ」
それだけ言うと、サイモンは大股でルーカス様の部屋から出ていった。
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