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第83話 愛とは ③
「あ、そうだ。今、二階で花嫁さんがドレスを着ているんですが、レオナルド様も手伝いに行っていただけませんか?本当は女房がするはずだったんですが、子供が泣いて泣いて手が離せなくて……」
「それはいいんですが、僕は男ですよ」
「花嫁さんも男性のオメガなので、大丈夫です。レオナルド様この通りです、お願いします」
店主さんに顔の前で手を合わせられると、断るに断れない。
「わかりました」
一階の店舗から二階に向かう階段を上がると、そこにはエマが立っていた。
「どうしてここに?」
「私もお手伝いです」
「エマもお手伝いなんだ。僕、ドレスに詳しくないから色々教えてね」
「任せてください!部屋はこちらです」
エマに通された部屋には大きな白い箱があるだけで誰もいない。
「あれ?花嫁さんは?」
「花嫁様はもうここにいらっしゃいます」
「?誰もいないよ」
「花嫁様はレオナルド様です」
「え!?僕?」
驚きすぎて声が裏返る。
「今日はサイモン様とレオナルド様の結婚式です」
「そんなの僕聞いてないよ」
「言ってませんから」
悪戯っぽくエマが笑う。
「でも僕、結婚式に使う物全く持ってないし、そもそも式にあてられるお金なんてないよ」
「式で使うブーケとケーキははもうあるじゃないですか」
「もしかして今日僕が選んだもの?」
「はい。それにドレスならここに」
部屋に置かれていた大きな白い箱の中から、エマが一着のドレスを出した。
そのドレスはスレンダーラインで、シルク生地に全て手縫いの花柄模様。裾には紫と青の細かい花が散りばめられていて、胸元にはブローチの代わりのように、紫と青の糸で一輪の花が刺繍されていた。
なんて美しいんだろう。
美しすぎて、吸い込まれそう。
「これは……?」
ドレスから目を逸らせずに聞くと、
「ミカエル様からレオナルド様への贈り物です」
思いもよらない答えが返ってきた。
「ミカからの贈り物?」
「はい。実はミカエル様のドレスをかけられていたハンガーラックの奥に、この箱が隠されていたそうです」
僕はエマの話を聞きながら、吸い寄せられるようにドレスに近づき手に取る。
上等のシルク生地にある手縫いの刺繍は一目一目が細かく、裾の紫と青の花は僕達が好きな花。
「ドレスにはこのカードが添えられていました」
差し出されたカードには僕達の邸宅近くに咲いている花が押し花されていた。
カードを開くと
ー大好きなレオへー
18歳の誕生日おめでとう!
そしてサイモンとの結婚、おめでとう。
このドレスね、レオのために作ったんだよ。
もしよければサイモンとの式で着てもらえると、嬉しいな。
きっと素敵な式になるだろうな。
本当は式に参列したいけど、もし僕が参列できなかったら、僕の好きな青とレオの好きな紫の花束を飾って欲しいんだ。
そうすれば僕も式に参列できるでしょ?
レオは僕にとって、大切な人。
愛してるよレオ。幸せになってね。
ーミカエルよりー
「どうして……」
どうしてミカは、いつも僕のことを考えてくれていて、どうしてそんなに優しく包み込んでくれるの?
なのに僕はミカのことを言い訳に、自分は可哀想な子だと思っていたなんて。
こんな僕の本性を知ったらミカは、どんな悲しい気持ちになるだろう……。
「ごめんね、ミカ……」
僕が呟くと、
「レオナルド様、そこは『ごめんね』じゃなくて『ありがとう』です。『愛してる』です」
エマが言う。
「ミカエル様は大好きなレオナルド様が、自分がしたことでレオナルド様自身を嫌いになったと知れば、悲しいです。ミカエル様の幸せはレオナルド様が幸せになることです。だから….」
「ミカ、ありがとう。僕も愛してる」
ドレスを胸に当て言うと、ミカが笑ったような気がした。
ミカが一針一針縫ってくれたドレスを着て一階に降りると、そこには僕と同じく紫と青い花の刺繍がしてあるタキシードを着たサイモンがいた。
「サイモン、そのタキシード……」
「ミカからのプレゼント。添えてあったカードにはお祝いの言葉と『レオを幸せにしなかったら許さないからね』って書かれてたよ」
と、サイモンは苦笑いする。そして僕を見つめながら跪き、
「レオナルド、幸せにする。俺と共に歩んでくれますか?」
右手を差し出す。
胸がいっぱいだ。
サイモンの気持ちが。ミカの気持ちが。エマの気持ちが。みんなの気持ちが僕の中に入って来て、幸せな気持ちで胸がいっぱいになる。
差し出されたサイモンの手に僕は手を添え、
「はい」
と返事をした。
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