7 / 102
第7話 黒髪
ステージが暗くなり客席から見えなくなった。また、違う男がベッドにいるようだ。今度は天蓋付きの白い布がかけられた夢の国のしつらえだ。
ベッドに半身を起こして座っている。薄い布を掛けて、何も着ていないようだ。スポットライトが当たる。
客席から一層大きな声援が飛ぶ。
長い髪を解いて薄衣を肩にかけ、ベッドの上に膝立ちで起き上がったのは、あの検見川零士だった。
細い腰に布を巻きつけて、上半身にかかった薄衣を落とした。思いのほか筋肉に覆われた完璧な細マッチョ。髪をかきあげてうなじが見える。
たまらない色気。
「抱いて!零士抱いて!」
切ない声がかかる。こちらを流し目で見て色っぽい。綺麗な肌にワンポイント、薔薇の刺青が乳首の下に彫ってある。品のいい,セクシーな刺青。音楽に合わせて踊る腰がセクシーだ。
しばらく呆然としていた。目が離せなかった。
客席から常連のような客が抱きついて来た。
零士は優しくハグして、その客の髪を撫でて、
席に戻した。その仕草が流麗で見事だった。
「誰もが零士を好きになる。零士の魔法にかかる。」
蓮が言った。
神がかったストリップショーが終わって、俺たちは魂を抜かれたようだった。
「そろそろ帰ろう。シン君お会計してください。」
徹司がプラチナカードを渡した。レシートを見ると33万の文字が見えた。
席料が1人2万、指名料が1万づつ、シャンパンが11万.、フルーツが10万.ショーチャージが1人3万円で内税になっている。締めて33万円。
俺はビビったが、徹司は気にしなかった。
(人間は平等じゃないな。)
俺の家は普通だと思っていたが、こう言う人たちがいるのだ。
庭の梅の木に実がなると大喜びするのが俺の家だ。
(この差はなんだ?)
たまたま、金持ちの家に生まれた徹司。それでもいい奴だ。中学から変わらない。
そしてこんな世界に身を置く零士って奴。
ショーでいくら稼ぐんだろう。
いろんな意味で熱に浮かされたようにぼぅーっとして帰って来た。
次の日、大学の中庭のベンチで昼飯のおにぎりを食べている俺には、世界は昨日のまま、何も変わらない。妄想の彼の正体が少しわかったことだけだ。
「美味しそうだね。一つ交換しない?
私のサンドイッチと。ご飯が食べたいんだ。」
(コンビニでおにぎり買えばいいじゃん。)
零士にくっついていたあのウザい女が近寄って来た。
ともだちにシェアしよう!

