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第8話 美咲ちゃん
「こんちは!
あの『スーパーフレッシュ』の店員さんでしょ。この大学だったんだ。
私は奥田美咲。零士と同じ、看護科2年。」
俺は唖然として、手に持っていたおにぎりを差し出した。
「中身、何?」
「梅干し。」
「お米が美味しいね。海苔も特上品でしょ。
でも、一番は梅干しだ。」
なんだかうれしくなった。ばあちゃんの梅干しを褒められたのが嬉しい。米も親父が田舎の田んぼで作っている。はえぬき、と言う品種だ。
「美味しい。この所コンビニのサンドイッチばかりだったから。 ご馳走様でした。」
この前 バイト先の『スーパーフレッシュ』で会った時と印象が違った。あの時は商品を雑に扱う嫌な女だと思ってしまった。人は見かけによらない。
自分の決め付けを反省した。米の味のわかる人はいい人だ。東北出身の人間の思い込みだが。
徹司も俺も山形出身だ。ここは山形とそんなに違わない田舎だ。老人が多い。
それでも繁華街には,面白そうな店がある。
怪しい店。遊びには事かかない。
「東京の大学」に入ったつもりだったがここは結構田舎だった。北関東。東京ではない。
あのねずみの仕切っている遊園地も東京と名乗っている田舎だ。
「あのぅ、美咲さん、零士さんのお仕事、知ってますか?」
「ううん、知らない。」
怒ったように言うのは、知ってるって事だ。
あんまり、話題にしてはいけない、と思った。プライバシーだ。ほじくってはいけない。
家に帰ってひとり、考えてみた。
(なんで零士さんはあんな仕事してるんだ?
金に困ってるのか?
なんで看護師になりたいんだろ?
何で2年も経ってから、大学に入ったんだろう?)
疑問符だらけの心の恋人だった。
そう、初めて会ったあの日から心の恋人なのだ。
「ホントはあの時、俺も零士に,触りたかった。
触れてみたかった。あの綺麗な身体。」
髪をかき上げる仕草にも痺れる。
あんな素敵な人には二度と出会えないだろう。
ずっとそんなふうに考えていたのが、案外近くにいたんだ。
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