14 / 102
第14話 徹司
「草太を汚すな!」
徹司がすごい形相で入って来た。後をつけていたのか?ドアは確かに閉めて施錠したはずだ。どうやって入って来たのだ?
ここは零士の隠れ家の一つ、秋吉の所有するマンションだった。セキュリティの厳しいあのタワマンより、便利でこちらを使う事が多い、というかもう住み着いている。草太は秋吉との関係を知らない。
あれから草太は零士に溺れていた。自分のアパートにも連れてくる。狭い部屋で暇さえあれば抱き合っていた。
「零士、愛してる。離さないよ。」
いつも草太が攻め、になるからもう零士は自分のものだと思っている。いつも受け入れてくれるから。零士も草太に執着している。
「俺たち、愛し合ってるんだよな。」
草太の言葉に、零士は少し暗い顔をする。その端正な顔を両手で包んで優しくくちづけする。
悲しい顔はさせたくない。首に抱きついてくる零士が堪らなく愛しい。
世間知らずの草太は、身体を許し合った仲なら
それは揺るぎない愛だ、と信じていた。
大学もサボりがちになって、『スーパーフレッシュ』のアルバイトも辞めてしまった。
そして、徹司の元に度々借金を頼みに来るようになった。
あの慎ましくまじめに暮らしていた草太が堕落して行く。零士が原因だとわかった。友達が落ちて行くのを止めなくては。
そう言うわけで零士の居場所を探した。
草太と一緒にいない時はどこにいるのだろう。
あの秋吉教授の家を訪ねた。
「私も困ってるんだよ。
世間知らずの田舎もんが、零士の魅力にハマってまとわりついているようだ。
身の程を知るように、君から教えてやってくれないか。」
「何ですか、その身の程ってのは。
教職に就いた人間の言う事ですかね?」
大人の狡猾さには勝てない。グッタリと肩を落として[ジャズバー青山』に来た。
徹司も信頼出来る大人と言えば、この店のマスターしか思い浮かばなかった。
父親に頼めば優秀な弁護士を紹介してくれるだろう。でも、なんて言えばいい?
「友達が恋に溺れて、腑抜けになってしまいました。」
と、でも言えばいいのか?具体的な事が浮かばなかった。
「マスター、草太が骨抜きにされたんです。
地下のコンパブですか、ボーイズバーか、あそこのホストに。
って言うか同じ大学の奴に、なんですけど。」
「待て待て、落ち着け、徹司。
あの魔性のモデルかい?」
「そうです。有名なんですか?」
「被害者は一人じゃない。
恋に落ちるのは、犯罪じゃないし、ね。」
ともだちにシェアしよう!

