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第16話 ミー&ボビーマギー
マスターが話を聞いてジャニス・ジョプリンのミー&ボビーマギーをかけてくれた。
「今夜おまえを抱けるなら、明日はいらない。」
ジャニスが歌う。クリス・クリストファーソンが作った歌だ。
草太の今の心境だろう。
「演歌の森進一の港町ブルースにも似たような歌詞があるよ。
明日はいらない、今夜が欲しいって。
恋をするとみんなこんな気持ちになるんだろうな。」
「何、泣いてんだよ。草太ぁ!」
今日は零士がいない。不安定な草太だ。
零士はたまにいなくなる。何をやってるのか、どこにいるのか、草太は知らない。聞くと零士は悲しい顔をする。
マスターがマルガリータを作ってくれた。
「テキーラでも飲んで元気だしなって。
人生はブルースだ。諦めのブルース。希望のブルース。」
草太には何を言っても響かない。
「だって、零士がいないんだ!」
「これは重症だな。」
「お釈迦様でも草津の湯でも、恋の病は治りゃせぬ、ってね。」
「マスター年いくつ?
時々、ウチのじいちゃんみたいな事言うね。」
「草太の今の問題を整理しよう。
何が一番問題なんだ?」
みんなで一つ一つ検証した。
「まず、生活するのにお金が必要だ。次に学生の本分は勉強だ、大学に行く事。
それから労働の義務。働いて報酬を手に入れる。一攫千金は、ない。
基本は生活だ。キチンと生活する。
ご飯を食べて働いて眠る。そして愛し合う。」
「愛し合う、が一番なんだ。」
「違うよ、生活をキチンとすれば愛し合えるんだよ。」
「やっぱり、俺は愛し合う事しか考えられない。」
徹司はどこまでも草太を守ろうと考えた。
親に融資を申し込んだ。
先代が残した自分の分の有価証券類を整理したいと父親に申し出た。結構莫大な資産だ。
草太は全く知らない事だった。徹司の友情を超えた申し出だった。
徹司が念を押すように訊いた。
「おまえと零士は本当に両思いなんだよな。」
だったら、どこまでも守ろう、と思った。
「地獄の底まで応援するよ。」
熱すぎる友情だった。
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