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第18話 生活感

 そう言えば、零士には生活感がない。何も執着しないからか。  人間の心の中のドロドロしたものも無いのだろうか。指が綺麗な男。手を汚した事がない? 「俺、今すぐ欲しいものしか欲しくないんだ。」  長いスパンで物事を考えないと言う。そんな人間がいるのだろうか? 何か、過去に強烈な出来事があったのか。  草太は零士の全てが知りたい。全部を自分のものにしたい。  抱きしめて聞いてみる。 「俺の事、愛してるって言ったよね。 離さないって言ったよね。  もう突然いなくならないで。 携帯電話、持っててよ。」 「嫌だよ。今だって全部見張られてるようなものなんだ。」 「意味がわからない。」  抱きしめてくちづけされた。草太がこれに弱い事を知っている。  こうやって目の前にいるだけで、もう何もいらない、と思ってしまう。  草太は零士がまたいなくなってしまうかも知れない恐怖と戦っている。 (どうしたら、繋ぎ止めておけるのか。)  零士の好きな食べ物を用意する。零士は食が細いから極上のものをほんの少し。 「常陸牛の極上があったから。 焼き方はどう?あとヒラメのお刺身も。」 あまり料理の出来ない草太の精一杯の食材を買っておいた。 「ワインも買った。 全然わからないから売り場で一番高いのを選んだよ。」  田舎のスーパーで売ってるワインだ。高くてもせいぜい1500円くらい。美味しいワインのはずがない。  それでも時間に合わせて買った焼きたてパンがある。 「ありがと、草太。風呂に入りたい。」  いそいそと零士の世話をする草太が痛々しい。 傷口から血が吹き出しているようだ。 「ワイングラスも買ったんだ。」  二つ取り出した。 「待って。一緒に入るよ。」 風呂に向かう。着ているものを全部脱いで、身体中、零士に見つめられた。 「恥ずかしいよ。そんなに見ないでくれ。」 「浮気はしなかったか?」 「は?するわけないよ。零士こそ。」  零士は冷たく笑った。

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