25 / 102
第25話 安藤陸
指定暴力団T会若頭、安藤陸。
陸はガキの頃から突っ張っていた。本質は女々しい男だと、自分が一番わかっていた。本当は誰かに依存したい。甘えたい。そんな自分を隠して来た。男らしさにこだわる父親に空手を習わされた。陸がガキの頃は空手ブームで特に女子が多かった。子供の格闘技など甘っちょろい。
フルコンタクトと言っても防具越しに本気で正拳を突くと泣き出す奴ばかりだった。
型も甘い。
「平安初段!」
一斉に声を出して突きを出す。ぬるい型。ダンスか。
小学生の大会では簡単に優勝できる。先手必勝。先に一本入れれば勝ちだ。女子はすぐに泣く。男子も低学年ならすぐ泣く。
「馬鹿馬鹿しくてやってられないよ。」
父親に言っても辞めさせてくれなかった。ぬるいガキの空手はつまらなかった。
道場を代わった。K空手。
ここは厳しかった。昇級試験はフルコンタクトでわずかな休憩を挟んでトーナメントだった。つまり勝ち続けると休みも交代もなし。ボロボロになるまで本気で戦う。
子供用の防具は、付けていても役に立たない。
本気の突きや蹴りがとんでくる。
休みたかったら負ける事だ。負けたくなかったら決勝まで休めない。
今までのぬるい空手と全く違った。女子もいたが、ここで通用するのは半端ない闘志の持ち主だけだ。誰も泣かない。
ぬるい型なんかやらない。ラジオ体操ではない。鋭い突きが、声と共に響く。
組み手では実戦を叩き込まれる。
「やっこいところ、狙え。」
脇腹を集中して突く。反則にならないギリギリを突く。実戦形式は面白い。これこそ正にフルコンタクトだ。
陸はこのK空手で頭角を現した。強い男を目指す。その思いがいつの間にか、強い男に惹かれるようになった。
ケンカ常勝。陸に勝てる奴は少ない。道場では常に勝っていた。年齢別の試合では負けた事はない。厳しい父親はよろこんだ。
負けたことが無かった。中学生の部は猛者ばかりだった。陸はその男らしさにクラクラした。
初めて陸が負けた試合。
「試合,試合、空手の試合は死合いなんだ。」
その陶酔感。陸を負かした男に恋した。
まだ、ガキでその思いをどうする事も出来なかった。高校生になった。
あの陸に勝った男と同じ高校だった。
ともだちにシェアしよう!

