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第26話 陸の初恋
父親は、男らしくなっていく陸を可愛がった。
身長も15才で184cm、体重80kgの堂々とした体躯になった。
陸は自分の性癖に気づいていたから苦しかった。
(空手やる男は、どうして素敵なんだろう。)
好きな男と触れ合える,空手の時間。組み手の時間が好きだ。
高校生になると、やたらケンカの助っ人を頼まれるようになった。
「喧嘩上等。」
イキってしゃがんでる奴の額に蹴りを入れる。後ろにひっくり返る。壊さないように細心の注意を払って倒す。
「森校の陸さんですよね。ケンカ強いっすね。
空手やってんですか?」
もう高校生の頃は空手から遠ざかっていた。
空手の有段者はケンカが出来ない。縛りがキツかった。空手家の拳は凶器と見做される。
「ケンカに勝つために空手やったんだよ。
使えねえんなら辞めるぜ。」
ラインの入った黒帯(二段以上)も返上した。
ケンカに明け暮れていたが、極力傷つけないようにするのがキツかった。
ただ、勝つのなら簡単だ。相手に負けを認めさせるのが難しい。弱い奴ほど引き際をわきまえていない。それで、怪我させたり、死ぬまでやっちまったりする。
空手が教えてくれたのは人間の弱い所。どこを狙えばケガさせずに勝てるか、だった。
極道になった今でも役に立っているのは、人間の身体は弱いものだ、と言うことを知っている事。そして本当に強い人間は、ケンカをしない、と言う事だった。
陸は強い人間に憧れた。その思いはいつしか、恋愛感情に直結するようになった。
そして零士のような人間に出会う。
衝撃だった。しなやかさ、強さ、美しさ。
天性のセンスだろうか。零士が踊る。軽くしなやかに。
秋吉が連れて来た男は、バネのような身体を持っていた。
ある時、二人になる機会があった。手を伸ばして抱き寄せようとしたら、軽くすっ飛ばされた。
「???」
「おまえ、秋吉がヤクザだって言ってた。
ヤクザでホモ?最悪だな。でも嫌いじゃないよ。」
零士は凶暴でしなやかなケモノだった。
「おまえ、売られたんだよ、あの教授に。」
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