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第31話 怒り

 次の日、その煙草を押し付けたキャストは、形が変わるほど顔を殴られて、店に来た。 「鼻も骨折してるんです。歯も折れて。」  陸は零士の仕業だと知った。 「おまえなぁ、ホストは顔が命、だぞ。 やるなら壊さないようにやれ。 商品なんだ。損害賠償してもらう。」 (まったく、ど素人が。殴り方も知らないで、傷ものにしやがった。)  商品に傷をつけられて落とし前を付けなければならない。零士をどうするか、悩ましい事だ。  零士を怒らせた奴が悪い。零士は今回はお咎めなし,ということになった。本家の親父の一声、だった。 「次はないからな。自分のものには、鍵でも付けてしまっておけ。」  草太を辞めさせる話も出たが、それは違う、と保留になった。   怪我したホストには整形手術を受けさせたが 傷は残るそうだ。  零士の凶暴さが噂になった。 「あいつを怒らせるな。」  今までに、陸がやられた、たった二人の人間。 吉田征一と、検見川零士。陸は認めたくないが仕方がない。  空手家で警察庁でも有数の実力者だった吉田。 だが、陸は、あの華奢な美青年零士に軽く投げ飛ばされたのが不本意だった。  舐めていた。女と見紛う美青年。その裸体を売り物にしている恥ずべき男娼まがい。  その零士に一瞬で心を持っていかれた。陸は自分の弱みを人に見せない。  そうやって極道の世界でのし上がって来た。 先を読む力と、瞬時に判断する度胸で渡世の道を生きて来た。 「おい、零士、呼んでくれ。」 事務所に零士を呼びつける。 「かしら、何の御用ですか。 鬼枕野郎の治療費払いますんで。」 「零士、そんなに草太がたいせつなのか?  後先考えずに暴力で解決は出来ねえぞ。」  不貞腐れている零士も何かそそられるものがある。  手を伸ばしてその髪を触った。黒くて長い髪。 また、投げられるか、と思ったが零士は肩にもたれかかって来た。  顔を見つめて自然にくちづけする雰囲気になった。甘くて切ないキス。  思わず本気になりそうな零士のキス。陸は絡め取られる覚悟をした。  今までどんな奴にも感じた事のない興奮で、下半身が疼いた。

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