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第32話 情緒不安定

「零士、やりすぎだ。」 「俺の草太に傷をつけたんだ。殺しても良かった。」  零士の目がイッテる。違う世界に生きてるようだ。 「いつもそうなの?」 「草太が大事なんだよ。 草太に何かあったらそいつを生かしちゃおかないよ。俺の草太に傷を付けた。」 「怖いよ、零士、大丈夫?」  零士は子供の頃の話を始めた。 「負けず嫌いだったんだ。 物心ついた頃から、いつも気に入らない事をしてくる奴に負けた事はない。」  学校に馴染めなかった。許せない奴はその場で仕返しした、という。  学校の問題児。乱暴者、様々なレッテルを貼られた。 「それでも、真っ当に生きようと思ったんだよ。 看護師になろう,とかね。  でも、向いてなかった。途中から気づいた。 そして秋吉が付け込んできた。」  身体に嫌な事をされても耐えていた。そして体を使えば相手はいうことを聞く、とわかった。 「草太は俺の良心。良心を思い出させてくれる。  それまで、何か人に酷い事言われたり、やられたりしたら、その場でキッチリ復讐して来た。  相手の事なんか考えない。だってみんな俺を傷つけて来るんだ。なんで俺の方で気を使う必要がある?  今は草太を守る事が全てだ。愛してるよ。」  優しく抱いてくれる。零士の優しい愛撫に負けてしまう。 「俺も仕事をするようになって、また、零士が腹を立てる事があれば心配だよ。」  その腕に抱かれて話をするのは落ち着く。 「零士って綺麗な目をしてるね。その目を曇らせなくないよ。」 「こうやって抱き合うのが幸せだ。 いつも草太を感じていたい。」 「ヤキモチは無しだよ、お互いに。」 いつ零士の逆鱗に触れるか、とビクビクしては仕事が出来ない。  零士は奔放なのだ。帰ってきたり、来なかったり。どこにいるのだろう。  草太はこの頃、零士の全てを知ろうとは思わなくなった。  いつも誰かの胸に抱かれているような零士なのだ。それでもここに帰ってきてくれる。  零士の不安定が少しわかるようになってきた。 「ある意味、病的なんだ。」  草太だけが気付いていた。

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