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第35話 バー青山
草太のテーブルに零士が座った。キスしようとした客が零士に驚く。
「お嬢さん、その子は俺の、ですよ。
キスなら俺としましょう。」
その女性客は零士にいきなりキスされて、焦っている。それでも焦りが陶酔に変わった。
「れ、零士とキス出来るなんて⁈」
「零士、俺のお客さんだよ。あっち行って。」
草太は零士に睨まれてしまった。
一階のジャズバーに徹司がいる。
落ち着いたマイルスのトランペットが流れている。
「マスター、下のボーイズバーはとんでもない店だね。もろヤクザだ。ヤクザの事務所になってる。俺、探偵を雇ったんだ。」
「ああ、ヤバい店かもしれないな。」
「草太が働き始めたんだ。なんか嫌だ。」
「ああ、『ジュネ』はかなり性的なサービスの店らしいから、心配だね。」
「やっぱり。もう草太は零士に感化されて、何でもやるようになったんだ。
草太のばあちゃんに顔向け出来ないよ。」
「徹ちゃんはどうしたいの?」
「辞めさせたい。出来れば零士とも別れさせたい。大学に戻るように。」
マスターがレコードを変えた。
「至上の愛、コルトレーン。
やっぱりこの頃のジャズがらしい、ね。」
常連客が話に入ってきた。ジャズ談義。
「モダン、いいね。
「マイルスはいろんなチャレンジしてるから。」
「マラソンセッション。
この4枚のアルバムが好きだなぁ。」
「ハードバップ時代?」
「モード。俺はカインドオブブルー。
モードの名盤だ。」
「ボヤボヤした感じ。
水墨画だってビルエバンスが言った奴?」
「俺は後半の音楽性がいいな。」
「メンバーが凄くなっていくんだ。ライブがスリリングだ。マイルス・クインテット。」
「ロックとかの影響?フュージョン?
カオスだ。」
「フリージャズ?」
ジャズバーらしいお客さんの会話だ。
話題が零士に戻る。
「零士って大丈夫なのか?」
「キレやすいって聞いたことあるよ。」
徹司も噂は聞いていた。
「零士って何かやってなかったか?」
「何かってヤクとか?」
「違うよ、音楽。前に聞いた事あるな。」
マスターも
「ああ、バンマスが何か言ってたな。」
店に来る常連のミュージシャン。バンマスと呼ばれている人が何か知ってるようだ。
「そろそろ来る頃だ。聞いてみよう。」
バンマスが現れた。
「いらっしゃい。いつものでいいですか?」
バンマスはいつも強いラムを好む。
「ロン・サカパをロックで。
あれ、入ったか?レモンハートデメララ151。」
75.5度のラムだ。今は手に入らない。
「相変わらず製造中止のままですね。
ガイアナの工場が焼けちゃったから。」
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