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第36話 ブルース
バンマスはクセの強い人だが人望がある。
ギターの名手で誰もがブルースマン、と讃える。
いろんな事に一家言持っていて、何か知りたい事は彼に聞けば答えてくれる。
「バンマス、零士って知ってますか?」
「ああ、あのクソガキだろ。
何かやらかしたか?」
バンマスの情報は興味深いものだった。
零士は、この町の近くで育った。美咲ちゃんも幼馴染だと言っていた。
「あんな男は初めてだ。」
店にあるギターを爪弾きながら
♫あの男の事でも話すかな♩
♫おいらの昔のさ。♩
即興でブルースを歌い始めた。
「零士っていうのはまだ、ガキだろ。
ガキのくせに悪魔なんだ。」
「バンマスは零士を知ってるんですね。」
「ああ、あいつがブルースだ。」
徹司も初めて聞くバンマスの話は興味深い。
「零士の父親が合気道の師範で、道場を開いていた。零士も、門前の小僧習わぬ経を読む、
で合気道を覚えた。
柔よく剛を制す、で最小限の力で相手を倒す。
ガキの頃から弱そうな外見だが、ケンカを売られても負け知らず、だった。
誰かが止めないと死ぬまでやるようなヤバいガキだった。」
バンマスは高校生の零士を知っている。
「ギター弾きたい、と俺の所にやってきた。
ま、才能は無かったね。」
すぐに飽きて放り出したが、バンマスの家にはちょくちょく遊びに来たらしい。
運動神経は抜群で、音楽の才能もありそうだったが根気がない。快楽に流される。
女に手が早い、という噂だったが、恋人が続く事は無かった。
あの秋吉教授が目をつけて、コネで大学に入れた。高校を出てプーだった頃だ。
「秋吉がゲイに引き摺り込んだんだ。
零士に出来るのは男娼だけだろう、と周りは見放した。親はとっくに愛想を尽かしていた。
孤独の匂いが染みついた男だった。」
バンマスは、胡散臭い秋吉教授の事も知っていた。
「音楽の方に行けば,まともになれただろう。
例え趣味でもいいから。 私の力不足だった。
それでも、ブルースは好きだ、と、よく家に訪ねて来た。
今は何をやってるんだろう?」
「俺の友達と付き合ってるらしいです。」
徹司が言った。
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