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第39話 サチリアジス
高校生の頃、双極性障害と診断された。その頃通っていた大学病院の心療内科。
担当医はあの秋吉だった。その頃は教授というより精神科医の仕事をしていた。
零士は誰もが振り返るような美青年。華奢で守ってやりたくなる。親が心配するのはその女性関係だった。
「サチリアジス。気分障害からの躁病でしょう。
君はドンファン型だね。」
サチリアジスは男の色情狂の事だ。そう診断しながら、秋吉は舌なめずりしていた。
「しばらく通院してもらうよ。
ああ、入院でもいいかな。」
秋吉が零士の進路を決めてしまった。
「大学も看護科なら推薦枠がある。
君は成績がいいらしいね。」
精神疾患のある人間は看護師にはなれないはずだ。親ともども、秋吉にいいように操られた。
入院する代わりにしばらく預かる、と言う名目で秋吉のマンションに軟禁状態になった。
「君は女性が好きなのか?」
「いえ、セックスに興味があるだけです。
女性だけに拘るつもりはありません。」
ミソジニーの秋吉は、零士をゲイにする事に異常な執着を見せた。
「治療が必要だ。
私の言うことを聞きなさい。」
秋吉は零士に女性嫌悪を植え付けた。元々ゲイ寄りの性格だったのか、抵抗はなかった。
ただ、醜い秋吉は零士の審美眼には叶わなかったから、愛する事は無かった。
性の快楽だけでセックスは出来る。
愛だの恋だのは、零士には必要ない、そう思い込んでいた。
しばらく、秋吉との爛れた生活は続いた。零士の目は、虚無しか映さなくなった。
秋吉は医者の力で零士を追い込んで病気に仕立てた。それに気づいたのは美咲ちゃんだった。
小さい頃から零士を見て来た。女ったらしの噂があっても,心までは無くしていない、と信じていた。学内では美咲ちゃんに何度か助けられた。
性的にだらしない、と聞きつけて近づいてくる輩を片っ端から跳ね除けた。
「零士にはうるさい彼女が付いている。」
それが草太が初めて零士を見た頃だった。草太がスーパーで働いていた頃。
無気力、無関心の零士に、付かず離れずガードしていたのは美咲ちゃんだった。親はとっくに見放していた。
それでも、光り輝く零士の美貌は目立っていた。そして、誰とでも寝る、という噂も。
「サチリアジス。女ならニンフォマニア。
色情狂だって。美咲はどう思う?
俺に抱かれたい?」
「バカ。」
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