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第46話 見失う
夜中に目覚めて手を伸ばすと、そこに眠っている愛しい人。気付いて抱き返してくれる。
もう、零士がいないと眠れない。一人ぼっちでは眠れない。手を伸ばせばその手を握り返してくれる。また、夢の中に戻って行く。
眠る事って不思議だ。今まで一人で平気だったのに。
ずっと寝顔を見ていた。俺は零士無しでは生きていけない。零士も同じ気持ちだといいけど。
眠れない夜、初めて出会った時の事を思い出してみる。
「見つけた。」
って思ったんだ。妄想の中の恋人にピッタリだったから。それから、また会えた。もう運命を感じた。もう一度会えたら、それは運命。
でも運命の人は奔放な男だった。俺の育ってきた環境にはいないタイプの人。
振り回されて今に至る。大学にも行かなくなって何もかも見失ってしまった。
今は全て、運命の人のためだけに生きてる。
田舎の親は理解出来ないだろう。男の人なんだ。
数日後、あの龍一さんの診察に呼ばれた。
今度は大学病院の精神科病棟。診察室には最新の機器が揃っている。
零士の運転でフィットで来た。運転するんだ⁈
「やあ、こんな遠くまですまないね。
私はこんな機械を使うことには懐疑的なんだが。
とりあえず、何か知りたい事はあるかい?
頭のMRI 検査とか。輪切りに出来るよ。」
「俺の方で選べるんですか?」
龍一のやり方には患者がみんな驚く。
「だったら、何もしないで帰りたい。
病院は嫌いなんで。」
零士はもう仕事から足を洗いたい、と思っただけだった。ヤクザから自由になりたかった。
縛られている気がしていた。陸は脅しをかけてくるタイプのヤクザではなかった。
でも、秋吉から、零士の病気はどこにも雇ってもらえない、と脅されていたから、まともな社会では通用しない、と自分を縛っていた。
親には病気が一切の免罪符になっていたから好き勝手に生きて来た。
今までのいい加減な暮らしが変わって行く。
愛する人が出来た。草太は零士の全てを知った。それでも愛してくれる。
「だから、変わらなくちゃならないんです。」
「精神科の医者は、往々にして、人生相談の解答者になるもんだ。」
貴也が隣で頷いている。
「俺、龍一の恋人だよ。」
聞いていた草太が目を輝かせた。
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