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第47話 仕事

 零士は奥の事務所に行った。 「陸、ちょっと時間、いい?」 「ああ、雑用は後にするよ。」  零士の肩を抱いて優しくソファに座った。 「零士、キス。」  頭を抱いてくちづけをしてくる。 「止めて。俺は陸のオモチャじゃないよ。」  首をすくめて逃れようとする零士を、強い力で抱き寄せる。 「俺が本気になったら、陸なんか投げ飛ばせるんだ。離して。」 「おやおや、王子様はご機嫌斜めだね。」 「俺、仕事辞めたいんだ。 草太と一緒に暮らすから。」  陸の顔色が変わった。優しい恋人から、本物のヤクザに。 「陸はそんな怖い顔をするんだね。」  陸は悲しそうな、泣きそうな、顔になって零士に懇願する。 「もう、ステージに立たなくていい。 店も辞めてもいい。  でも、俺を捨てないでくれ。」  零士は困った顔をやめて、真顔で陸を見た。 「ヤクザは何でも力技で解決しようとする。 本当に誰かを愛した事があるの?」  陸は考えてみた。今まで決して後ろを振り返らない人生だった。後悔なんてしない。 「こんなに執着したのはおまえだけ。  零士、別れるなんて言わないで。 何でもするから。金か?エンコでも詰めるか?」 「そんな事しか知らない陸が哀れだ。」 「哀れ⁈」  ヤクザに1番言ってはいけない言葉だった。 また、陸の顔色が変わった。 「ご、ごめん。」  強い力で顔を覗かれた。 零士は陸の逆鱗に触れた、と観念した。 「抜けるには厳しい掟とかあるんだろ?」 「ああ、じゃあ、零士の片方の腕でも貰おうか?」   飾ってある日本刀を手に取った。鞘を抜いて抜き身の刀を目の前に突き付ける。 「極道だから、刃が立ててある。 いつでも、切れるよ。」 「腕だけ?命は取らない?」 「ああ、片腕だけだ。腕の付け根を縛って。  手をここに置いて。」  ゾクッとした。覚悟なんか出来ていない。  口を使って紐でキツく腕を縛って目を瞑った。 (もう二度と草太を両手で抱けないな。)

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