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第48話 けじめ
一閃、ヒヤリと日本刀の刃が髪に触れた。
縛っていた黒髪が一束、ドサっと落ちた。
切られたのは髪だけだった。刀を鞘に納めて
陸は零士を見つめた。
「これでお別れだ。
店のスターがいなくなると売り上げが下がるな。
残念だ。」
潔く立ち上がって陸がドアを開けた。廊下には組の若いもんがズラッと並んでいた。
「おうっ、零士やめっから、送り出してくれ。」
クルッと背中を向けて陸は戻っていった。
落ちていた髪の束を大切そうに拾って。
(さすがだな。極道だ。)
零士はまだ、足が震えていた。
「さて、と。俺はどこへ帰ればいいのか。」
車を出して草太の部屋へ行った。
「草太、おまえも店辞めろ。」
「えっ?」
「部屋を見つけよう。さあ、出かけよう。」
「零士、大丈夫?」
「草太、俺を抱いて。」
ソファに抱き止めて二人崩れ落ちる。
「震えてるよ。一体何があったの?
髪が斬バラだ。酷い切り方。」
「束ねたまま、切り落とされた。
直しに行かなくちゃ、な。」
今度は震えて笑い転げている。
(情緒不安定?零士の持病?)
とりあえず、美容院に行く事にした。
「草太、これ全財産。」
厚い封筒と通帳を投げてよこした。
「すごい、大金だよ。」
「これでアパートを借りよう。
草太と幸せになるんだ。」
草太に抱きついて眠ってしまった。草太がずっと零士の背中を撫でていた。
零士は、苦しそうにしばらく眠った。
「起きた?」
ずっと苦しそうにうなされて眠っている零士が、愛しくてならない。どんなツラい事があるのだろう?
「仕事、探さなくちゃ。草太もだよ。
もうあの店は続けられないだろ。」
草太は不安に思った。誰かに相談したい。
(徹司しか思い浮かばない。
俺って友達少ないんだな。)
寂しい気持ちで徹司にメールを送った。
ー零士も俺も仕事辞めた。
これからの事を相談したい。ー
とメールした。
すぐに返信があって
ー今どこ? すぐに行くよ。ー
ー俺の部屋。零士もいるよ。ー
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