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第53話 ボーイズバージュネ
もう二度と関わらないと決めたはずだったのに、草太が働き始めたのは『ジュネ』だった。
「ああ、天罰だ。
また陸に話をつけに行かなくちゃならない。
十分な金は置いていったのに、何であそこで働くんだ?」
草太の部屋に帰ったら、もう出かけた後だったようだ。隣の部屋の住人に聞いてみた。
「なんか、夜職始めたみたい。ホストとか言ってたよ。草太って可愛い顔してるから、向いてるかもね。」
零士は愕然とした。このまま立ち去ろうか、と考えた。もう二度とこの部屋には来ないって事で。
「なんて事だ…なんて事だ…」
また、あの陸に頭を下げて草太を引き取りに行くのか。様々な方法を考えてみた。
「あのバカ。なんて事してくれたんだよ。」
一方、店で働く草太は、意外と人気が出た。
ウォーキングする半裸のイケメンたちに混じって
草太はファンの姫たちからステージに上げられた。
透ける生地のシャツを着て辿々しく踊る草太に、姫たちが札をズボンに挟み込む。
シャツをたくし上げて薔薇の刺青を見せると歓声が上がって、また札をシャツの胸に突っ込んでくる。さりげなく触られる。
「ああん、やめてよ。服が脱げちゃう。」
「草太可愛い!脱いで!」
声援が上がる。
ステージの袖で、零士はハラハラしながら見ていた。
(なんて事だ…)
逡巡している零士の横に陸がさりげなく立った。
「どうだい、おまえの草太は、ちょっと見ない間に成長しただろ。
どうだ、妬けるだろ。」
零士は振り返って陸を睨みつけた。
「夜の世界でしか、生きられないやつがいるんだよ。おまえもその一人だった。
帰って来いよ、俺の元に。
また、俺のものになれよ。」
陸が肩を抱いて囁く。その目は蛇のような極道の目だった。
零士の目に涙が浮かんだ。
「おいおい、泣いてんのか?」
「悔し涙だ。ちくしょう!
こんな店、潰してやるからな。」
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