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第55話 零士のブルース 2

 一触即発の雰囲気の中で零士の存在感は、圧倒的だった。  鬼枕先輩が出した爪を引っ込めた。猛獣が尻尾を巻いた瞬間だった。 「姫たち、いらっしゃい。 草太を指名してくれたんだね。ありがとう。」 「零士に会えるなんて、今夜はツイてる。 どこにいたの?みんな会いたがってたよ。」  零士が姫の顎を指で持ち上げて軽いキス。他のお客さんも羨ましそうだ。 「俺の草太をよろしく。」 「また、復帰するんでしょ?ストリップとか。」 「ああ、今度はホストもやるから売り上げよろしくね。」 「零士に手が届く。高嶺の花じゃないんだ。」  零士の人気はまだ衰えていない。 「すごいね。零士はオーラが違う。」 (俺が独占しちゃダメかな?)  零士の登場で、場を収めた草太は、一階のジャズバーに来ている。 「いらっしゃい。久しぶりだね。」 「バンマスは来る?」 零士が聞く。 「ああ、もうすぐ来るよ。いつも遅い時間に来る。」  零士は何か言いたそうな陸を残して営業の終わった草太とこの店に来た。陸に店で働く事を約束させられていた。 「俺、キューバリブレ。」 「俺も同じの。」  マスターは笑って 「ラムのお好みは?」 「強いやつ。あ、キューバリブレやめてカシャーサで。ライム入れて。」 「ピンガはラムじゃないんだよ。」 「俺、カイピリーニャにする。コーラやめて。 甘くしないで。」 「お、おれも、同じの。」  草太もわからないなりに注文した。ライムの香る爽やかな飲み物が目の前に置かれた。  口当たりが良くて,おかわりした。 「ねえ、零士。陸さんに何か言われた?」 「店で働く事になった。」  脅されて、陸が草太に手を出さないように、零士が無理な事を了解した。またストリップショーをやる事を約束した。ホストも兼ねて、枕をやれ、と言われた。  類稀な美貌を持つ零士を、陸はほしいままに使うつもりだ。ヤクザのやり方はしつこい。  奥の事務所で、ソファに沈んで、陸は笑っていた。 「やっぱり、俺は零士に惚れてる。」  その笑顔に一筋の涙が光っていた。

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