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第57話 音楽
「ブルースピアノは簡単そうだけど、慣れないと苦労するよ。
レッスンしてもらった方がいいな、プロに。
ジャズピアノと大変さは同じだ。」
草太は大変な宿題を与えられた気がする。
ずっとクラシックしか弾いた事はない。ショパンを主に弾いた。それも、大分ブランクがある。
「ウチの奥さんが、ピアノ教室やってるよ。
ジャズピアノだけど。ブルースなら教えられる。」
マスターが妻帯者だと知らなくて驚いた。
「結婚してたの?マスター。」
「奥さんはジャズピアニストだ。」
「すごい、ぜひ習いたい。」
マスターが連絡して店に来てもらった。近所だ。
「初めまして。青山櫻子です。」
「あ、俺、泉草太です。」
「ブルースピアノ弾くのね。
ブルースはホンキートンクピアノで弾くのよ。
知ってるかしら。」
マスターの奥さんはバルーンみたいに太った人だった。歌もうまそうだ。オペラ歌手の体型?
マスターの目が優しい。
(きっと、大恋愛だったんだ?)
「ホンキートンクピアノって?」
「アメリカで開拓時代、馬車でピアノを運んだ。
ガタガタ道を行くから、ピアノの音が狂ってしまう。調律師なんかすぐには呼べないから、外れた音でそのまま演奏したのがホンキートンクピアノだよ。中々味のある音だったんだ。」
「お住まいにピアノはあるの?」
零士が
「明日、住むところを探します。ピアノ弾ける所。草太と住む家を探してピアノ買います。」
キッパリと宣言するみたいに言った。
「俺、草太と一緒に何かやりたいんだ。
二人で、ね。」
マスターは店の近くに住んでいると言う。櫻子さんの教室もそこにあるらしい。
「通えるね。」
「まずは引越しから、だ。」
酒を飲んでるから車は店の駐車場に置かせてもらった。
「私が送ってあげるわ。」
バルーンの櫻子さんの車に乗った。レンジローバーだった。車体の大きな車で安心だ。
「私、お酒、飲めないのよ。いつも運転手。
車は明日取りに来たら。バスで来なさいよ。」
「はい、ご親切に。ありがとう。」
めちゃめちゃ明るい櫻子さんを、草太は大好きになった。
朝からの不安は、零士がいるだけで消えてしまった。草太の狭いアパートに帰ってきた。
「ふうー、長い一日だった。
やっと草太を抱きしめられる。」
零士は肩にもたれて崩れ落ちてしまった。
「結構飲んだね、お酒。」
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