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第59話 診察
広くてリラックス出来る内装の診察室に通された。母と、あのアレックスまで、付いてきた。
「初めまして。佐波龍一です。」
名刺を差し出した。
医学博士と准教授の肩書きに、零士の親はすっかり信頼した。
「ウチの零士とは以前からのお知り合いでしたか?
主治医が代わったと聞いて、病気が悪くなったのか、と心配しました。」
父親の言葉に
「完治しました。医者は滅多に完治,と言う言葉を使わない。誤診だったと言うことです。
最初から病気なんか無かった。
サチリアジスと言われませんでしたか?」
龍一の言う事が信じられないようで、父親は質問を繰り返した。
「もう、薬の処方もないとか?
親は不安でして。薬を飲んでいれば、安心、というか。」
「前の主治医だった秋吉教授は、薬事法違反で捕まりましたよ。患者に違法薬物を投与して、病気を作り出す、常習犯でした。
医師免許も剥奪、だそうです。」
「えっ?そんな事、ニュースにもなってない。」
「裏に何か内定中の事件があるようで、
また、公に出来ないんでしょうね。
知り合いのものから聞いた話です。」
その知り合いとは探偵の吉田の事だった。
零士と龍一を引き合わせたのも吉田だった。
徹司が依頼した敏腕探偵。蛇足ながら、吉田は陸の初恋相手でもある。
「何だか、はい、そうですか?とは言いづらい。
納得出来ません。
零士は子供の頃から、何かのきっかけで暴れ出し、手に負えなかった。
私は合気道を教えている。合気道は争わない武道です。非暴力なのです。
息子のこの暴力性はどこから来るのか?
先生が完治した、と言っても納得出来かねます。」
「お父さん,人間は誰しも心が高揚する時がある。自身をコントロールするのは、誰にでも簡単に出来るわけではない。
暴力性は彼の美徳ではないですか?」
そんなことを言う医者を初めて見た、と父親は腑に落ちない。母が、
「先生がおっしゃるならそうなのよ。
病気なんか最初から無かったの。
私は零士を信じる。」
「それと、サチリアジスというのは、そうそうある病気ではありません。
人は誰しも愛し合う生き物です。生物はみんなそうですね。その愛がストレートに出てしまうのは、異常でも何でもない。」
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