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第60話 アレックス
零士の両親はずいぶん安心して帰って行った。
病院を出る時、アレックスがしつこく龍一の電話番号を聞いた。
「ドクター、カッコいい。
僕、合気道を極めるためにもう10年も日本に住んでるんだ。あなたみたいな人初めてだ。
師匠の息子もかなりイケだけど、あなたは別格だ。是非ともお友達になりたい。
今度デートしてクダサイ!」
龍一は苦笑いをして貴也を呼んだ。
「私のアシスタント、野田貴也くん。
そして私の伴侶でもある。私はゲイなんだ。
キミもだね。残念ながら浮気はしないんだ。
キミもゲイだとすぐにわかったが、日本人はまだまだ頭が固いから気をつけて。」
周りに聞こえないように、小声で言った。
零士の両親には、本人からカムアウトするべきだろう。
「ドクター、握手してください。」
アレックスは力強く手を握った。
(はああ、いい男はみんな誰かに持ってかれる。)
アレックスはがっかりした。その性癖に気付いているのは、零士の母だけだった。
暖かく見守ってくれる。間違っても道場の練習生に手を出さないように。
「師匠、今日は僕、東京を一晩見てから帰ります。失礼!」
アレックスは繁華街に消えた。
T大病院は東京のど真ん中にあるから、渋谷でも,新宿でも、六本木でも、すぐに行ける。
有名なハッテン場を目指した。
(以前、日本に来た時、友達に教えてもらった。
外国人でも入れる店があったはずだ。)
カッコいい長身のアレックスは六本木を選んだ。歩いているだけでスカウトされる。
道場のある北関東の田舎町とは、歩いている人種も違う。
外国人でも、モテるランクがあるらしい。
ヨーロッパ系の金髪碧眼が一番だ。
アレックスは文字通り金髪碧眼で、合気道で鍛えた筋肉質な身体はセクシーだ。
日本ではアフリカ系アメリカ人もモテるらしい。可愛い女の子が黒人の腕にぶら下がるように歩いている。友達に
「あの女の子たちは娼婦?」
と聞いた事がある。
「全然違うよ。普通の堅気の女の子たちだよ。
黒い人が好きなんだ。音楽も、ね。」
大変驚いたのを覚えている。
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