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第65話 また外泊

 草太のいる家に帰った。 (また、無断外泊だ。それも他の男と一晩中セックスしてた、なんて。)  何とも気まずい気持ちで玄関を開けた。 「ただいま。草太、ごめん。」  ピアノの前に座った草太が見えた。 「バンマスがブルースの曲、作ってくれたんだ。 なんか悲しい感じの曲。」  ゆっくりピアノを弾いて歌って見せた。 ♩あんな指の長い男ってのは     はじめてだったよ。♩ 「指の綺麗な薄情な男の歌だ。 なんか零士の事みたいで、うまく弾けない。」 「ごめん。」  抱きしめた。愛しさが溢れて来る。 その唇を貪った。激しいくちづけ。 「待って。痛いよ零士。」  手の甲で拭って見つめる。 「草太が好きだ。愛してる。」  零士の胸に抱かれて、草太は聞きたい事がたくさんあったのに、全部忘れた。 「ごめん。」 「零士は誰かを抱いた?」 「ああ、他の奴と寝た。」  零士は蒼ざめた草太に気づかなかった。 「俺はこんな奴なんだ。 草太には似合わない。 汚れた奴なんだ。」  絶望的な顔をして草太は抱きついた。  目に光る涙を拭おうともせず、零士にしがみ付く。ポロポロと綺麗な涙が止まらない。  大切に頭を抱いてその頬にくちづける。 「もう、一緒にはいられないかい?」 「零士はどうなの? 自分で壊しておいて、 俺に答えを求めるのはずるいよ。」 「ごめん。ごめんしか言えない。」  草太を抱いてソファに崩れるように座る。 二人で選んだソファ。 大きくてゆったり包み込んでくれる。 「座り心地が最高。 二人でもゆったりしてる。」  二人で暮らすために買った。ちょっと気恥ずかしいソファだった。 (まるで、ここでもセックス出来そうって思ってるみたい。)  いつも零士の帰りを待つだけの家、になってしまう。 (こんなつもりじゃなかった。 一人でいるのが寂しくて、二人でいたくて暮らし始めたんだ。) 「二人なのに、一人でいた時より寂しいのは何でだろう。」  誰かを抱いてる零士を、待つのは嫌だ。

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