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第69話 徹司の思い

 徹司は、草太が幸せならいいか、と静観していた。音楽的な趣味が広がるのはいいことだ。  草太は音楽の成績が良かった。 徹司の趣味の古いジャズを一緒に聞いてくれた。 田舎の中学生にはジャズはあまり流行らなかった。草太はピアノの曲が好きだ、と言ったので、マッコイタイナーばかり勧めた。  「ピアノが跳ねてる。」 徹司のマニアックな趣味に付き合ってくれた。 (懐かしいな。中坊のころだ。 ショパンばかり弾いていたのに、ジャズはどうだったのか?退屈じゃなかったのか?)  生意気盛りの知ったかぶりで草太をひきづりこんだ。  草太はいつも引き摺り込まれるタイプだった。 (俺がきっかけで、いつも悪い方にひきずり込んでしまう。)  もう帰らないあの頃。  徹司は、いつも草太と一緒の道を歩いていた。 同じものを見ていたはず。 (いつから,他の誰かと歩き始めたんだ? 気がつけば置き去りにされているのは俺だった。)  アルバイトする必要もない徹司と、真面目に働く草太。  それでも同じ景色を見ていた、と思ったのに。 あの、ボーイズバーで働く草太が心配で仕方ない。零士を好きな草太を応援しようと思っていた。守ろうと。でも守れてない。  いつも心配している。 「マスター、地下の店、ヤクザがやってんでしょ。草太は酷い事されてないかな?」  心配で、あのジャズバーに行って聞いてみる。 「ああ、大丈夫。毎晩、仕事が終わると草太はここにくるよ。ウチの奥さんにピアノ習ってるんだ。まじめだって言ってたよ。」 「ああ、草太にはそういう事だけさせてやりたい。」 「父親の目線だね。」 「そう、俺ずっと保護者の気持ちだったんだ。」  零士と草太が仲良くしあわせなら、それでいいと思っていた。 「いつも、二人で来るの?」 「いや、別々だ。仕事柄、お客さんの目があるからね。」 「あのヤクザがよくそのまま二人を見逃してるね。なんかいろいろ縛り付けて条件を出して来ると思ったんだけど。」 「草太には何も言わない。 あのヤクザが執着してるのは、零士だ。」  徹司は気付いてしまった。

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