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第75話 吉田
吉田が陸を訪ねて来た。要件は、店の者に零士の家を襲わせた一件だろう。
「陸さん、アンタらしくもない、下手打ったね。
若いもんに,何やらせてんだ。」
零士の主治医が問い合わせて来た,と言う。
「主治医って、あの佐波一家の長男坊だろ。」
わざわざ事を構えようと言うのか?
陸の質問に
「自分の患者だから責任があるって事なんですよ。強盗はヤバかったよ。ドクターがお怒りなもんで。私が話をつける役をおおせ使ったんです。」
陸は金庫から札束を掴み出して、目の前に投げた。一千万くらいあるだろうか?
「これで家の修理してやってくれ。
あちらの極道がお出ましになるほどの事じゃねえだろ。」
吉田の顔色が変わった。
「若頭、いや、陸さんか?
ずいぶん見くびってくれたもんだな。
間に入って穏便に、と思ってここまで来たが、これはご挨拶にも程がある。」
「すまん、吉田、怒らせたか?
俺はこんなやり方しか知らないんだよ。」
吉田は金をもらいに来たわけではない。
「極道らしく筋を通したらどうだ?
佐波一家は金もらいたいわけじゃない。
筋を通して詫びを入れろと言っている。
強盗は被害届けが出てるから警察も、見ないふりは出来ない。」
「金じゃねえならどうしろと?
俺のエンコ(小指)でも持って行くか?」
吉田は陸の顔を見た。
「そんなに俺おかしいか?」
「店のモデルまで使って、トチ狂ってますぜ。
足がつかないと、思ったんですか?」
「俺には、金で解決、しかねぇんだよ。
話があるならここへ来いって言ってくれ。
ドクターでもヤクザでも、話、聞いてやるよ。」
陸は四面楚歌、だった。
自分の事に、店の人間を使ってしまった。それも外国人だ。立場が微妙な彼らの弱みを利用して、零士を襲わせた。
(ゲスい考えだと自分でもわかっている。
俺は、俺の中の男を見失ってしまった。)
吉田は
(まだ、この男、救いようがあるな。
空手の試合の時のように、やられても何度でも
食いついて来てくれ。
俺はおまえを何とか助けたい。)
吉田は柄にもなく陸に、肩入れしている。
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