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第76話 取り下げ
「被害届、取り下げて来た。」
零士が、吉田と一緒に警察署に行って帰って来た。
「本当は取り下げって簡単に出来ないんだよ。
本部長を知ってたから、何とか頼んだけど。」
草太が、どうしても、あのウォーキングダンサーたちを犯罪者にしたくない、と吉田に頼み込んだ。
吉田は、家の修理費を陸に払わせるつもりだ。
零士が、
「草太の頼みだから,聞いてやったけど、二度目はないからな。」
この事件をきっかけに、零士と草太は店を辞めることが出来た。
零士と草太の家の周りをうろつく、あの刑事たち。
「あの、何で家を嗅ぎ回ってるんですか?
強盗事件はなかったんだ。被害もなかった。
何か、問題でも?」
刑事はギロリと睨みつけて、
「無かったことにされても、確かに強盗事件はあったんだ。おまえ等、怪しすぎるぞ。」
「失礼ですよ。あなた、お名前は?
警察手帳見せてよ。」
相手がサッと見せた。
「よく見えない。名前のところ。
今関、弘さん。もう一人の人は?
平井、裕二さん?
わかった、よく覚えておくよ。」
今関は警察でも有名なホモ嫌い。
いつも目の敵にして来た。零士たちの家を見張って何か弱みを探ってる。
気の弱い平井は、いつも今関にくっついている。以前、怪しいと通報されて、そこの犬に噛まれた事がある。態度がオドオドしているので、犬も怪しんで噛んでしまった。
「この犬、殺処分しますよ。人を咬んだんだから。」
その家の人が大変可愛がっている家族同然の犬だった。飼い主の知り合いに警察の幹部がいたので、その話は消えた。
長いものには、まかれろ。が合言葉のような刑事たちだった。
それ以来、平井は今関の忠犬だ。
「面倒な事、言わないで下さいよ。
裏から手を回すのは厄介なんだから。」
「吉田さんありがとう。草太のわがまま聞いてくれて。」
草太の願いを徹司が聞いて吉田に頼んだのだった。警察にも顔が利く吉田は,頼りになる存在だ。
しばらくは静かな日々を過ごせた。
零士と草太は音楽に力を入れている。
「何者でもない、ところから、だね。」
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