76 / 102

第76話 取り下げ

「被害届、取り下げて来た。」  零士が、吉田と一緒に警察署に行って帰って来た。 「本当は取り下げって簡単に出来ないんだよ。 本部長を知ってたから、何とか頼んだけど。」  草太が、どうしても、あのウォーキングダンサーたちを犯罪者にしたくない、と吉田に頼み込んだ。  吉田は、家の修理費を陸に払わせるつもりだ。 零士が、 「草太の頼みだから,聞いてやったけど、二度目はないからな。」  この事件をきっかけに、零士と草太は店を辞めることが出来た。  零士と草太の家の周りをうろつく、あの刑事たち。 「あの、何で家を嗅ぎ回ってるんですか? 強盗事件はなかったんだ。被害もなかった。  何か、問題でも?」 刑事はギロリと睨みつけて、 「無かったことにされても、確かに強盗事件はあったんだ。おまえ等、怪しすぎるぞ。」 「失礼ですよ。あなた、お名前は? 警察手帳見せてよ。」  相手がサッと見せた。 「よく見えない。名前のところ。 今関、弘さん。もう一人の人は? 平井、裕二さん? わかった、よく覚えておくよ。」  今関は警察でも有名なホモ嫌い。 いつも目の敵にして来た。零士たちの家を見張って何か弱みを探ってる。  気の弱い平井は、いつも今関にくっついている。以前、怪しいと通報されて、そこの犬に噛まれた事がある。態度がオドオドしているので、犬も怪しんで噛んでしまった。 「この犬、殺処分しますよ。人を咬んだんだから。」  その家の人が大変可愛がっている家族同然の犬だった。飼い主の知り合いに警察の幹部がいたので、その話は消えた。  長いものには、まかれろ。が合言葉のような刑事たちだった。  それ以来、平井は今関の忠犬だ。 「面倒な事、言わないで下さいよ。 裏から手を回すのは厄介なんだから。」  「吉田さんありがとう。草太のわがまま聞いてくれて。」  草太の願いを徹司が聞いて吉田に頼んだのだった。警察にも顔が利く吉田は,頼りになる存在だ。  しばらくは静かな日々を過ごせた。 零士と草太は音楽に力を入れている。 「何者でもない、ところから、だね。」

ともだちにシェアしよう!