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第77話 龍一

 裏社会のネットワークで佐波一家の耳に強盗の件が入って来た。龍一の耳にも届いた。 「零士は大丈夫たったのか?」  彼の暴力性がまだ、表出していない事に安堵、した。 「そうか、あの陸さんと言う人が零士に執着してるんだね。」  本物のヤクザは厄介だ。自分もヤクザ社会に身を置く龍一は、何か一悶着起こりそうだ、と感じた。   陸は、零士と草太の家を修理している経過を聞いていた。 「家の修理をしている間も、壊れた部屋で生活してるんですよ。何とか使えるようにして、まるでキャンプか何かのように楽しそうだ。」  話を聞いて陸は羨ましかった。 ママゴトみたいに力を合わせて生活ってものをやっている。陸は日常を誰かとわかちあう、と言うのにたまらなく惹かれる。 「不便じゃねえのか?」 「二人仲良く買い物なんかに行って、いつも一緒です。俺等も羨ましいって思ってます。」  一番最初にピアノを直した。 あのジャズバーに顔を出してバンマスに聞いてもらう。 「相変わらず、ひでぇピアノだね。 なんか歌作った?」  ポツポツとピアノを弾きながら、 ♩いつもどれだけ働いてても、 暮らしはよくならねえ。 ♩また、振り出しだ ♩いつになったら抜け出せるのか ♩それでも、おまえがいる♩  気だるい伴奏に合わせてハスキーな掠れたような声が耳に馴染む。 「いいねえ。実感か?生活感が出て来た。」  バンマスが笑っている。 「家は直ったのか?」 「あ、ソファ、ありがとうございます。」  バンマスが使っていなかったソファをくれたのだ。 「デカすぎて邪魔だったんだよ。もらってくれて助かった。」 「あんな大きなソファ、嬉しいです。」  草太はちょっと恥ずかしかった。二人で抱き合って寝てるから丁度いい大きさだった。  家の修繕が終わるまで、二人のベッドだった。 「俺は和室に布団、ってのが好きなんだけど、なあ。」 零士が言う。

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