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第81話 もう思い出?

 犬の散歩に来ている。ウンチを拾う袋と,蓋に穴を開けたペットボトル。水がシャワーのように出る。よその家の塀などにおしっこをかけた時には素早く水をかけて流す。  動物嫌いな人は一定数いる。仕方のない事だ。 マックスはもう家族の一員だった。 「俺たち、子供が持てないから、マックスを溺愛してるのかな?」  草太が零士に聞く。 「草太は世の中の普通の夫婦になりたいのか? 犬を子供に見立ててノーマルなふりをしたいのか?」  草太はハッとした。 「俺、つまんない事に縛られてるね。」  零士が頭を撫でてくれた。 「バランスを保とうとするんだね。本能だ。」  草太は、自分が既成観念に凝り固まっている事を恥じた。  零士に肩を抱かれて見つめた。 「零士みたいに自由に生きられないよ。 田舎者なんだな。」 「田舎は関係ないね。草太は愛されて育ったんだ。俺と違って。」  草太はばあちゃんを思った。ばあちゃんに限りない愛情をもらった。  生きとし生けるものを全部愛するばあちゃん。 いつも膝の上に猫がいた。 「草太は愛されてるよ,今も。」  やさしくくちづけしてくれた。 「クゥーン。」 マックスが鼻を鳴らした。  二人には生活の重さがのしかかってきた。 働かなければ。  金はどんどん消えていく。 零士に抱きついて思い切って言った。 「俺、働こうと思うんだ。」 「草太が働く?」  零士が働くのは、身体を金に変える事。 草太はそれが嫌だ。陸に言えばまた、関係を迫られるだろう。 「俺たち、潰しが効かないね。」  草太は、初めて生活の重さを感じた。 零士が草太の頬にキスしてまた、いなくなった。 「酷いよ。マックスの散歩だって一人じゃ大変なのに。」  たとえ、一晩でも離れるのはつらい。 マックスも食欲が無い。食べ残している。いつもなら皿まで食べる勢いなのに。 「クゥーン。」  マックスの首に抱きついて、涙が出て来た。 「お金がないのって大変なんだ。」  もう知り合いからは借りまくっている。ばあちゃんにも、徹司にも。

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