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第84話 出会った頃

 草太は、思い出していた。初めて見かけたスーパーマーケットの中。 (こんな綺麗な男がいるんだ⁈)  女の子が独占するようにそばにくっついていた。 「零士、これ食べる?」 「食べない。」 「これは?好きでしょ?」 「いらない。」  ことごとく拒否しているのが、見ていて気持ちよかった。  女の子には睨まれてしまった。美咲ちゃん。 後で知れば気のいい娘。  零士の幼馴染。零士に恋してるのは、見ればわかった。誰もが恋に落ちる、そんな男だった。  思えばあの時、草太もすでに恋に落ちていたのか。  でも、その後、偶然にも声をかけてきたのは零士の方だった。あの店の男性ストリップを見て衝撃を受けていたから、いきなり誘われても違和感が無かった。よく考えればおかしいのに。  いきなりセックスしたなんて。 でも、あの日から,草太は零士に夢中だ。  今は、まさかの同棲してるなんて。何の生活設計もなくズルズルと暮らし始めた。  今、その齟齬が現れていた。 帰ってきた零士が、斜めがけしていたバッグを投げてよこした。  中には札束が、ざっと10ほど入っていた。百万円の束が10。一千万! 「俺、また、ストリップショーやる事にしたから。」 「えっ?嫌だよ。なんで?」 「手っ取り早く金になるから。 陸が支度金くれた。」 「嫌だ!嫌だよ!」 「もう浮気はしないんだから、いいだろ。」  草太は涙目になりながら、零士に抱きついた。 マックスが一緒に抱きついてくる。  倒れそうになりながら、二人を支える零士。 「他に方法が見つからない。 草太は軽蔑するかい?」 「ごめん、大好きだよ。 零士ばっかりつらい思いをさせて。  俺も働くよ。大学に前からいつも出てる求人。 倉庫のピッキングの仕事。繁華街から送迎バスが出てるって。」 「いつも募集してるって事は、人が続かないんだよ。そんな大変な仕事、しなくていいよ。」 「やってみなくちゃ、わからないよ。」 「待て待て、陸が草太も店で働けって。 接客が嫌なら、ウエイターの仕事とかもあるし。」  零士のそばにいられるなら、いいかも知れないと考えた。

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