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第98話 ブルース

 バンマスが来た。ギターを抱えて。  爪弾きでブルースを歌う。  さっきから、カウンターの隅で大人たちの話を聞いていた零士と草太。 「バンマス,しばらくです。」 「あんなことがあって、歌なんか作れなかった。 あれがそのまま,ブルースだったから。」 「なんか聞かせて。」 「ああ、大変だったね。」  バンマスは静かに歌い始めた。 「クラプトンのティアーズインヘブンだ。」  聴いてるみんなが涙を流した。 「下の店の黒服が死んだんだよ。撃たれて。  陸さんも撃たれた。 なぜか、まだ起き上がらない。」  ボーイズバー ジュネ、はあの日以来開店休業になっている。 「新たな店をやろうとしても、ゲンが悪いって誰も乗ってこないらしい。零士、やらないか?」 「えっ?無理だよ。」  陸は植物人間のようだ。医師はもう起きてもいい頃だ、と言うのだが。 「きっと、煩わしいこの世に戻りたくないんだよ。」 「流星がずっとそばについてるんだ。」 「奴は悪いことばかりやってたから、 天国に出禁なんだな。」 「そんなこと言ってると、今頃、目、覚めてたりして。」 「あのドクターのお身内もたくさん被害者になったんでしょう?」 「ああ、虎ニさんと、若頭の若松さんが亡くなった。それと倭塾の若いもん、が三人亡くなった。 まだ10代だった。」 「佐波一家の跡目は虎ニさんじゃなかったの?」 「あのドクター、龍一さんが4代目、だって。 週刊誌が騒いでるよ。」 「喪が明けたら、襲名披露だって。 それと、パートナーの貴也さんが嫁の披露をするらしい。」 「それは、すげえな。ゲイを認めるんだ。」 「ものすごく,周りが変化したなぁ。 あの事件があってから。」 「俺たちも仕事探してんだよね。」 「だから、ボーイズバーやれば?」  草太が拙いピアノを弾き始めた。 「いつか、聞かせてもらったブルース、 もう一度聞かせてよ。」 「恥ずいな。」 「零士がいい声なんだ。」  草太のノートを見る。

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