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第99話 襲名披露
四十九日の法要も終わり、静かだった佐波一家が俄かに騒がしくなって来た。
「龍一、あれほど極道を嫌っていたのにいいのか。本当に跡目をとるってことで。
おまえが四代目だ。この大所帯をおまえが引き継いで行くんだぞ。」
金筋の佐波一家は歴史の古い極道だった。初めは博徒。江戸の頃、博打打ちの渡世人の元締めだった。
慶應年間。御一新(明治維新の古い言い方)の頃だ。明治が始まる。食い詰めた武士が極道に流れて来た。
血で血を洗う抗争もあった。
いつのまにか遊興全般を仕切るヤクザになっていった。この地域では地元を良く知る佐波一家が、面倒事を引き受けていた。
外部から狙ってくる広域暴力団との小競り合いも、大事になる前に収めて来た。
安心して商売が出来る、と住人から認められて来た。
「虎ニが死んじまうなんて予期していなかった。
長男として引き受けるしかないでしよ。」
親父に貴也のことを認めさせた。
「私は貴也を幸せに出来ないなら、
襲名も断ろう、と思ったんだ。
貴也がバシタになると言ってくれたから。
親父、そこの所、わかってくれよ。」
いつになく男らしい龍一に貴也は惚れ直した。
「医者と極道と二足の草鞋を履くことになる。」
「そんな事出来るの?」
「バレなきゃ大丈夫だろ。ダメなら医師免許なんかいつでもお返しするよ。
私の師匠はブラック・ジャックなんだ。」
「あはは、龍一の本棚に全巻揃ってたね。」
意外に呑気な龍一について行こうと決めた。
抱きついて
「愛してるよ、龍一。」
「じゃあ、一発やらせて。」
「ばか。」
佐波一家の奥座敷だった。神棚に祝いの品が山のように積まれている。全国の極道から届いたものだった。
「姐さん、また届きました。」
若いもんが大層な菰樽(こもだる)を
運んできた。
「神戸の芦屋組だ。灘の生一本。
美味い酒だ。芦屋のおやじから、だ。」
貴也は「姐さん」と呼ばれることに中々慣れない。
「ヤクザってめんどくさい、」
「彼らは面子で生きてるからね。
病理集団だ。」
若松が残した「大日本倭塾」は柳生さんがえらく気に入って、全面的に面倒を見る、といっている。塾代表のタケルがまとめている。
タケルは、もと暴走族で若いながら肝の据わった男だ。
「おまえらは、思想を持ってんだろ。
ただのチンピラじゃねえ。
日本を背負って立つんだぞ。」
あの抗争以来、入塾希望者が後を絶たない。
「日本の若いもんは大丈夫だ。」
「右翼団体まで傘下に置くのか?
龍一,大丈夫か?」
肩を抱かれて、貴也は龍一に頼りきっていた。
「俺が極道の女房だって?
勘弁してくれぇ。」
龍一も苦笑いだった。
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