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    「離脱」2/2

 何度も、話し合いを重ねた。「有事には戻る、訓練も欠かさない、あまりに戦いだけの日々だったので、しばらくの間だけでも穏やかに生きたい」と何度も伝えた。その甲斐あって、長い間のハーウェルの功績を|鑑みた《かんがみた》国王が、渋々ながらも、しばらくの休暇を許したのだった。   「団長、どうぞ」  ハーウェルの愛馬を連れてきた団員から、手綱を受け取る。荷物をかけ、馬に跨った。 「団長、お戻りを待っています。どうぞお気をつけて」  副団長の声に従い、団員達が胸に手を当てて、頭を下げる。 「こうして大げさになるから、昨夜、別れたのに」  苦笑しながら言うと、団員達も笑いながら顔を上げた。 「――あとを頼む」  ハーウェルは、頷く皆の顔を見回すと、背を向けて馬をゆっくり走らせ始めた。  「お元気で」「ご無事で」と、ハーウェルの背に向けてたくさんの言葉が届く。一度だけ振り返り手を振ってから、速度を上げた。  休暇にあたり、団長の引継ぎを申し出たが、国王にその許しは貰えなかった。副団長も「団長がお戻りになるまでの代理ならこの身に変えてもやりとげます」と応えた為、団長不在の体制が決まってしまった。  長い戦いを乗り切れたのは信頼できる仲間が居たから。  けれど、そんな団員達にも固く秘密にしてきたことがあった。  人には、男女の性の他に、第二の性がある。容姿や能力に恵まれ、支配階級に多く存在する希少なアルファ性。一般的な能力で最も人数が多いベータ性。妊娠や出産の能力を持ち、ヒートと呼ばれる発情期にはアルファと結ばれることを強く求める本能を持った、最も希少なオメガ性。発情期に番になることで、特定のアルファとオメガで結びつく習性を持っている。  凛々しい美丈夫と評判で、強い騎士のハーウェルは、疑われることもなくアルファだと思われていた。けれど、本当はオメガ性を有していて、それは、抑制剤を処方する医師しか知らない事実だった。  ……冗談みたいだよな、こんな体格で、オメガだなんて。  こんなにも強く見えるくせに――実際、この国でかなり強い地位に居たのに、発情に怯える側だったなんて。  ――考えても仕方のないことだけど。  第二次性徴の出るのが遅く、判別しないまま十七で入団、十九の時にオメガと判定された。自らもアルファだと信じていたので、青天の霹靂。もうその時には、騎士団の重要な地位に居た為、退くことは出来なかった。  アルファの多い第一騎士団では、絶対に悟られる訳にはいかず、最も強い抑制剤を飲んで戦い続けた。前隊長が重傷で退き、団長に抜擢されてからは特に気を使った。団長がオメガなどと知れたら士気に関わる。何とか秘密を保ったまま戦い抜き、戦を勝利で終えた。  だが、強い抑制剤の影響なのか、ヒートの間隔がとても短くなっている。  戦ばかりだった人生も体調も、一人で落ち着いて整えなければと思ったのが、騎士を退くことを願い出た真のきっかけだった。  ――かくして、騎士団を離れ、王国の最南端の森の奥、湖のすぐ近くの家に住み始めた。  そこはハーウェルが「蒼炎の騎士」であることなど誰も知らない、穏やかな場所だった。 ◇ ◇ ◇ ◇ 第一話。お読みいただきありがとうございます。 若き騎士団長として強く軍を率いていた男が実はオメガで。 見知らぬアルファに、戸惑いながら…(´∀`*)ウフフ というのが、好きで書いています。 強い受けを書くのは珍しいので、楽しんでいただけたら♡ お好きな方、ぜひブクマいただき、見守って頂けたら嬉しいです。

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