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   「穏やかな日々」2/2

 ただ、当初は騎士と言うことも秘密にしていたが、得体のしれない強そうな奴、と訝しげにも見られることもあったため、それとなく、戦が終わり休暇中の騎士だということだけは伝えた。国を救った「騎士様」というのもあり、それからは皆、むしろ丁寧に接してくれるようになった。  騎士になる七年前までは、伯爵家の息子として、普通にただ楽しく暮らしていたけれど、今となっては遠い記憶だ。 「ありがとう。また来る」  そう言って微笑むと、ミロや子供たちがじっと見つめてくる。  金の髪に、アクアブルーの瞳。珍しいのか、よく見つめられることがある。昔はそれには慣れていた。騎士の間は、周りは皆部下ばかりで、こんな風に見つめられることはなくなっていたのだけれど、この町に来ると、男にも女にも、子供たちにもよく見つめられる。居心地が悪いというか、何と反応したらいいかよく分からないまま、過ごしている。  すれ違う人達や子供たちにも挨拶をしながら、町を抜けて、森へと戻る。  町に通う道はもうとっくに慣れたのに、人とどう接していいのか迷い、少し疲れることもある。  七年間、騎士団長として命令をだす日々だった。そうやって過ごしていた日々が、ここでは何の役にも立たない。  馬に荷物を乗せて、手綱を引いて歩きながら、足の横をテクテクと歩いている二匹を見つめる。今度は、自然と、心からの笑みがこぼれた。 「ヴァロ、ウニ。帰ったらご飯にしような」  そう言うと、ハルを見上げた二匹が嬉しそうに笑った気がする。本当に可愛いなと思う。  ――ハルは昔から、とにかくもふもふとした柔らかいものが大好きだった。「蒼炎の騎士」などと呼ばれていたが、たまたま剣や戦の才能があっただけ。強いからと言って、性格までがそれにふさわしく雄々しいかといえば、それはまた別の話だった。本当は、可愛い生き物が好きで、自然が好きで、花が好きで、料理も好きだ。  けれど騎士の時は、それが好きだとは言えなかった。思えば、戦で勝つことだけに全部を賭けて、それ以外のところでは、嘘ばかりついていた七年間だったな、と少し呆れる。  ――それでも、長く続いた戦を終わらせたことには誇りを持っている。平和でなければ、穏やかに何かを愛すこともできない。  今の国王が、戦ばかりの周辺国を倒して統一し、平和に暮らせる国を作ると宣言した時、その為に、全てを手放して入団したのだから、悔いも何もない。現に今、強い信念の元に国王は、平和な国を作ろうと奮闘している。本当は、戻ってその手伝いもしたい。  辞退はしたものの、国王の配慮でかなりの褒美が出た。贅沢をしなければ、数年は暮らせそうだが、いつまでも団長が代理ではまずいのは分かっている。  ――いつ、騎士団に帰ろう。帰ったら、また強い抑制剤を飲み続けなければいけないだろうな……。  また全てを隠し続けるのか。隠し続けていられるものなのか。  そんな風に色々迷いながらも、一人の穏やかな生活に大分慣れた頃だった。 ◇ ◇ ◇ ◇

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