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元ヤン俺様Dom2
頬を引きつらせ、半笑いする。
――高校時代の晋也に最低最悪な思いをさせたんだ。その恨みつらみは断層みたいに年月をかけて積もっていった。以前受けた屈辱を晴らすために、ここまでやってきたのなら彼の目的は……俺をボコボコにして病院送りにすることだ! ――と全身に冷や汗をかく。
「もしも、」
「おっ、俺には、ドムのパートナーである推したちがいる!」
晋也はドムだ。相手がドムの不良やヤンキーのときは、威嚇するためにグレア を使う。
最初の頃は晋也がケンカ相手や、俺をいじめてきたやつらに敵意を向けただけで足がすくみ、今にも死にそうなほどの恐怖を味わった。
今の晋也はグレアなんて一切使ってないけど、地獄の閻 魔 大王みたいな顔で凄んできて恐ろしいこと、この上ない。
「アイドルや俳優で好きなやつがいるってわけだな」と彼は黒い笑みを浮かべる。「それがどうした」
「ちっ……違う! 恋人みたいにキスしてくれたり、ハグしたり、せ、セックスしてくれる。サブの俺を満たしてくれるドムたちがいるんだ!」
童貞処女=年齢。晋也にフラれた後、ソフトSMで言葉攻めをしてくれる人はあらわれず、画面の中にいるキャラクターたちを推す人生だった。
「も、もしも俺を殴ったりゃ、俺のドムたちが黙ってにゃいからな!」
言葉はカミカミ、足は生まれたての子鹿みたいに震えている。アラサーのいい年した男なのに高校時代と変わっていない。そんな自分が情けなくなる。
「……ニール 」
突然プレイ のコマンド を出された。
サブは普通、初対面のドムにコマンドを出されると身体と心が拒否反応を起こす。パニックになったり、最悪の場合はバットトリップしてしまうのだ。その状態でサブ ドロップ を起こすと、ひどい精神的不安や苦痛に襲われる。
でも俺の身体は、頭で考えるよりも先に彼の言葉に反応し、その場で両膝をついて座った。
顔を上げれば、満面の笑みを浮かべた晋也がいた。腰を落とし、床に座っている俺に目線を合わせる。
「なんだよ、相手の男どもは大したことねえな。じゃなきゃおまえがこうやって、すんなりオレのコマンドを聞くはずがねえ。むしろ――オレに命令されて喜んでんだろ?」
羞恥で頬が紅潮していく実感があった。
「いい子だ、迅。グッドボーイ 」
「っ……」
ただ褒められただけなのに、風邪にかかって熱を出したしたときみたいに全身が熱くなる。
「もっと」と懇願したくなる。拳を握り、唇を噛みしめ、目をつむった。
「どうだよ、サブ スペース の気分は。ほかのドムはおまえが望むコマンドを出さねえし、迅が指示通りに動いても褒めるのがへたな連中みてえだな。スタンド アップ 」
ふらつく足に力を入れ、手を取ってもらいながら立ち上がると、大きな手でやさしく頭を撫 でられる。
晋也は、まるで野生の獣が獲物を狙うときのような顔つきをしていた。
そんな彼を前にして俺の心臓は、大きな太鼓をドンドンと叩いているみたいな音を立てた。
「なあ、迅。オレなら、おまえの推したち以上に、おまえを満たしてやれる」
「……ほんと?」
「本当かどうかは、てめえが実際に体験してみればいい。これから一ヵ月、オレはコマンドを出し続ける。もし、おまえが一度でもバットトリップを起こしたら、そのときはただの後輩として過ごすって約束する。けど、おまえがサブスペースに入って、いやな思いをしなかったら――ほかの男どもと手を切って、オレだけのサブになってくれ。正式なパートナーとしてクレイム させてほしい」
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