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元ヤン俺様Domと夢見るオタクSubの恋愛攻防戦2

「ノロケじゃありませんよ!」と机の上に両手をつく。「これは晋也の綿密な計画です。俺の身も、心も(ろう)(らく)し、依存させてからボコすつもりでいるんですよ!」  ふたりはウンザリした様子で顔を横へ背けた。 「DV男ならあり得る話ね。でも夏目くんは、そういうことをしないと思うわ。じゃなきゃ高校時代に人をいじめたり、あなたを下僕にしてしょっちゅう殴ってたはずよ」とお姉さんが(ほお)(づえ)をつく。 「釣り師だって魚を釣る前に、いい餌を与えるでしょう」  するとお兄さんが大きく舌打ちをした。 「めんどくせえな。だったら、おまえはどうしたいんだよ?」 「そんなの……俺だってわかりませんよ」  愚痴をこぼしたのだから家へ帰ろう。  会計を済ませて外へ出る。  千鳥足で歩いていると何度も人にぶつかりそうになり、そのたびに謝罪の言葉を口にする。  着信音が耳に入り、カバンからスマホを取り出した。 「うわっ!」  肩に衝撃を受け、手に持っていたスマホを落としてしまう。 「すみません」と何度も頭を下げ、身をかがめようとしたら――「おまえ、理事長になんてことをするんだ!」  顔を真っ赤にした男に、いきなり胸ぐらを(つか)まれた。酒のにおいがムワッと香り、しかめっ面をする。 「なんだ、その態度は。生意気だな」  前後に揺さぶられ、吐き気を催すが、男は一向に手を放してくれない。 「会長くん、そんなふうにしたら謝るものも謝れないだろ」  (かっ)(ぷく)のいい男がしゃっくりをしながら、男の肩を叩く。彼は俺の首元を見て、ふっと口の端を上げた。 「相手は小汚い野良のサブ一匹だ。殴れば、きみの経歴に傷がつく」  男の手が放れ、()き込む。一秒でも早く、この場を去ろうとスマホを拾う。 「ですが、これでは僕の気が済みません」 「では、こういうのはどうだい。――ニール」  突然、頭や肩を押さえつけられる感覚がした。  理事長や会長の手は触れていないのに、重い岩を背中に乗せられているみたいだ。俺はその場で倒れ、動けなくなってしまう。  男の革靴が視界に映り、ゾワッと全身の肌が(あわ)立つ。 「私の靴を()めて、土下座したら許してあげよう」  俺たちの周りには大勢の人がいた。  困った顔をしたり、哀れみの目を向けたり、興味なさそうにその場から足早く離れたり、好奇心でスマホを手にしているやつもいる。  高校時代にいじめられていた記憶が、ありありとよみがえる。ガタガタと身体が勝手に震え、喉が詰まり、うまく声を出せない。 「スマホを見ながら歩いていたきみが悪いんだよ。きみのせいでスーツに傷がついてしまったじゃないか」 「そんな……」 「慰謝料を請求されたり、仕事先や親御さんに電話をされたら困るだろ?」  ドムのグレアを発動され、じっとりとした脂汗をかく。 「おまえ、理事長の命令に逆らうのか!?」  会長もドムで、ふたりぶんのグレアを食らう中、髪を掴まれて無理やり頭を下げさせられた。 「さっさと土下座しろ!」  涙がボロボロあふれ、目の前が真っ暗になっていく。  ――晋也が何を考えているのかは、わからない。  だけど、あいつは俺の意思を無視してプレイをすることは、一度もなかった。いつもサブドロップに入らないよう、やさしくしてくれた。  それはプレイをしていなかった高校時代も同じ。 「おっさん、オレの相棒に何してんだよ」  もう一度、会いたい人に会えた。  それだけで充分、幸せなことなんだと悟る。 「その(きたね)え手を、さっさとどけろ」  地を()うような声を出して晋也が(にら)みをきかせる。  グレアの威力が自分たちよりも強いと本能的に察し、男たちがひるんだ。  理事長は岩のように固まり、俺の髪を(わし)掴んでいた会長が手を放して後ずさりをする。  身体が自由になっても息苦しさや恐怖が薄れず、手足も小刻みに震えている。なんとか地面に座っている状態になると「迅、ゆっくり息をしろ」  隣に晋也がやってきて背中をさすってくれた。  でも俺の中のサブはこのまま叱られ、お仕置きもされずに捨てられてしまうのではないかと気が気でなかった。 「ごめん……晋也。俺……おまえとの約束を……」 「わかってる。トラブルに巻き込まれたんだろ。もう大丈夫だからな」  首を何度も縦に振っていれば温かい手が離れていく。  俺の前に立った晋也が、男たちに向かって頭を下げる。 「相方が失礼をしたようで大変申し訳ございませんでした」  目線を泳がせた理事長は「わざとじゃないのなら、べつにいいんだよ」と口早にしゃべった。  しかし会長のほうは「おまえが、あのサブの飼い主か?」と、あくまでも強気な姿勢だ。   「酒に酔っていても、やっていいことと悪いことがあります。それは、あなたがどれほど優秀なドムで、相手がパートナーのいないサブでも関係ありません。このように無理強いして、同意なくプレイを行い、見下していい理由にはなりませんよ」 「若造のくせに偉そうな口をきくな! 邪魔するなら、ただじゃおかないぞ」  理事長よりもひどく酔っている会長は、顔を真っ赤にして晋也の肩を手のひらで思いきり押して、ツバを飛ばしながら怒鳴り散らした。 「それは、どういう意味でしょうか」 「このクソガキ!」

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