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元ヤン俺様Domと夢見るオタクSubの恋愛攻防戦3

 右の拳を会長が振り下ろすと晋也は素早く拳をよけ、目にも止まらぬ速さで彼の右腕を背中に回し、拘束した。 「何をする!? 離せ!」と会長が目を白黒させ、(げき)(こう)する。  晋也は「今度、オレの大切なやつを傷つけたら、こんなんじゃすまさねえからな」と会長を(けん)(せい)する。 「おい、そこで何をやっている!」  ふたり組の男性警察官がやってきて俺たちは、その場で事情を話したが――「あのガキが理事長を突き飛ばして財布をスろうとしたんれふ」  ベロベロに酔っぱらい、呂律も回らなくなった会長が嘘をついたけど運よく一連の騒動を撮っている人がいて、俺のほうが被害者だと判明。  会長と理事長はパトカーに押し込まれ、警察署へ連れて行かれた。  ことなきを得て胸を撫でおろしていれば、「うちに帰るぞ」と手を差し出してくれる。彼の手を取って、そのまま帰路についた。  次に目を覚ますと朝だった。自室のベットから飛び起き、「仕事に遅れる!」と急ピッチでシャワーを浴びて歯磨きをし、身だしなみを整える。  朝ごはんの準備をしていると、スウェットパジャマ姿の晋也が、冬眠明けのクマみたいにノソノソキッチンへやってきた。 「晋也、何してんだよ!? 今日、仕事だろ?」 「はあ? 今日、祝日だぜ」  壁に掛けられたカレンダーを見れば月曜日の数字が赤くなっている。 「おまえ、まだ酒が抜けてねえのか」 「大丈夫だよ。もう平気」  朝ご飯に作ったしじみのみそ汁を先に飲んだから二日酔いになってないことをアピールする。 「そうかよ。オレも風呂に入ってくるわ」 「了解」と答えてフライパンの中でジュウジュウ言ってる玉子焼きへと目を向けた。 「迅」  いつになくまじめな声色で名前を呼ばれ、恐る恐る顔を上げる。 「朝飯食ったら話してえことがあるから」  それだけ伝えると彼は風呂場へ行ってしまった。  言葉少なに朝食を食べ終え、晋也が食器を洗い終えるのを椅子に座って待つ。 「待たせたな」  緊張していれば晋也が向かいの席に着いた。 「話って何?」 「その前にひとつ訊いてもいいか」  真剣な面持ちでいる彼に「いいよ」と答える。 「オレ以外のドムと縁を切ってくれねえか?」  目をぱちくりさせていると、どこか落ち込んだ様子で真向かいにいる彼が首の後ろをさする。 「この一ヵ月、おまえと一緒にいてオレは、やっぱり迅が必要だって思った」  これは都合のいい夢なのかと目の前の光景を疑った。  俺はオンボロアパートでゲームをやっている最中に寝てしまい、目を覚ましたら、晋也はどこにもいない夢オチになるんじゃないかとハラハラしてしまう。 「そりゃあいなくなったときは、すげえ腹が立ったし、会ったらぜってぇ、ぶん殴るって思ったけど」 「ねえ、ちょっと待って。今、すっごく物騒なことを言ってない?」 「うるせえな、話を最後まで聞けよ!」と急に立ち上がり、大声を出す。「おまえの顔を見たら全部どうでもよくなったんだよ。会社で再会したとき、他人行儀な態度をとられて、『なんで気づいてくれねえんだよ』って悲しかった」 「晋也……」  心臓が高鳴り、期待に胸が弾む。頬が熱くなり、膝の上に置いてある汗ばんだ手を握りしめる。 「こんな奇跡は、もう二度とない。このチャンスを逃したら、ほんとにこの恋は終わっちまう。かといって、てめえはオレ以外のドムとキスやそれ以上のことをヤッてるのに満足してねえ。オレなら迅を一杯甘やかして、幸せな気持ちにできるって、めちゃくちゃ嫉妬した。この一ヵ月、ドムとして、男としておまえに選ばれるよう最善を尽くしたけど……おまえは、どうしたい?」  「その前に、ひとつ訂正させて」 「んだよ、話の途中で」  今、本当のことを言ったら多分、晋也はブチ切れる。拳のひとつや、ふたつは飛んでくるかもしれない。  でも変に誤解させたまま傷つけるくらいなら、殴られるほうがましだって思ってしまったんだ。 「推しがいるのは本当だよ。でも、みんな二次元のキャラなんだ」 「はあ?」 「今でも俺はオタクで、ゲームやアニメが好きってこと。リアルで俺を満たしてくれるのは、晋也だけだよ」 「……マジで?」 「うん、そうだよ」  晋也がこっちにやってくる。ふわっと嗅ぎなれたにおいがして、身体を抱きしめられた。 「よかった……」  (あん)()のため息を漏らす彼をなんだか、かわいいなと思い、抱きしめ返した。 「そんなに、うれしいの?」 「オレは、好きなやつが自分以外の男とキスしてるのもいやな、潔癖野郎なんだよ」 「そうなんだ。でも、今後この身体に触れるのも、俺がサブスペースになるのも――きみだけだよ」  肩口にあった晋也の顔が目の前に来て、どんどん顔が近づいてくる。  目を閉じれば、少し冷たくて薄い唇が触れた。  そうして、ただ唇を重ねるだけの長いキスをした。

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